サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉が、米国の仲介で再び動き出している。正常化の見返りをめぐるサウジと米国間の協議が合意間近との観測もある。パレスチナ自治区ガザでの戦闘を受け、サウジは「パレスチナ国家樹立」への道筋を示すよう強く求めているが、イスラエルとの隔たりは大きく、和解への道のりはなお険しい。(リヤド 田尾茂樹)

 サウジの首都リヤドで4月末に開かれた世界経済フォーラム特別会合。急きょ追加されたセッションに登壇した米国のブリンケン国務長官は、「米国とサウジの合意はもうすぐだ」と強調した。サウジのファイサル・ビン・ファルハン外相も別の場で「協議はほとんど終わった」と語った。

 米国はサウジがイスラエルとの国交を正常化する見返りとして、サウジとの安全保障協力強化や原子力発電所開発の支援に加え、パレスチナ国家樹立に向けた交渉の後押しを提案しているとされる。

 最大の焦点となるパレスチナ問題について、ブリンケン氏は会合で「正常化の進展にはガザの平穏とパレスチナ国家への確かな道筋が必要」と述べた。ファイサル氏も「パレスチナ国家樹立への確実で不可逆な道が欠かせない」と訴えた。

 ブリンケン氏は4月末のサウジ訪問で、実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子やファイサル氏と会談し、詰めの議論を行ったとみられる。

 アラブ諸国は近年、イスラエルに接近し、2020年にアラブ首長国連邦などが国交を正常化した。そこで優先されたのは、パレスチナ国家樹立の「大義」よりも安全保障や経済面での実利だった。

 長年イスラエルと対立してきたイスラム教スンニ派の盟主サウジも、最大の脅威であるシーア派大国イランを封じ込めて地域の安定を図り、脱石油依存に向けた経済多角化を推進するため、イスラエルとの関係を強化したいという思惑があった。ムハンマド皇太子はイスラエルを「潜在的な同盟国」とまで評した。

 だが、ガザの戦闘で情勢は一変した。アラブ圏で反イスラエル感情が噴き出すと、交渉は凍結されたとみられていた。その中で再び動き出した背景には、秋の大統領選に向け、外交で得点を稼ぎたいバイデン米政権の思惑がある。交渉が成立すれば、中東の対立の構図を根底から変える「歴史的和平」となるからだ。

 ただ、サウジの政治評論家ムバラク・アラアティ氏は「ガザ戦争で状況は複雑になった。サウジも国交正常化による経済面などでの期待は大きいが、今はパレスチナ国家樹立を優先せざるを得ない」と指摘する。

 イスラエルとの和解に対し、サウジ国内での反対は根強い。22年の米研究機関の調査では、国交正常化に「賛成」との回答は5%にとどまった。サウジの会社社長(45)は「パレスチナ国家実現まで和解するべきでない」と言い切った。

 ガザで戦闘が続く限り、イスラエルへの反発は収まらず、最南部ラファに侵攻すれば、交渉はさらに難しくなるとみられる。それでも、アラアティ氏は「中東では物事が突然動く。イスラエル次第で一気に進む可能性もある」との見方を示した。