嵐山周辺の魅力

わたしが住む嵐山周辺にも、『源氏物語』ゆかりの地がいくつもあります。

そのひとつ、竹林のなかに佇む野宮(ののみや)神社は、伊勢神宮にお仕えする斎王(斎宮)となる皇女が身を清めた場所。『源氏物語』では、かつての恋人である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)に会うために光源氏がここを訪れます(巻10「賢木(さかき)」)。

虫の声が響き、秋草が茂る野宮。娘の斎宮に同行し伊勢に下ることを決めた六条御息所は、揺れる心を隠し、未練を語る源氏を突き放す……。

印象的な黒木の鳥居と小柴垣は、物語に描かれたままのたたずまいを見せ、わたしたちを平安時代へと誘います。昼間は観光客でごった返す野宮神社ですが、日が暮れると、怖いほどの静寂に包まれます。六条御息所のすすり泣きがどこからともなく聞こえてきそうな風情なのです。

毎年10 月に行われる野宮神社の「斎宮行列」も往時を再現する行事です。

駅前通りに突如として現れる本物の牛車(ぎっしゃ)に、子どもたちは「ウシさんだ!」と大はしゃぎ。平安装束に身を包んだ一行が近所の商店街をしずしずと進むさまはタイムスリップさながらで、最初に見たときは少々戸惑ったほどです。

夏の鵜飼(うかい)、秋の「観月の夕べ」(大覚寺)をはじめ、『源氏物語』に描かれた平安貴族の遊びも、年中行事としてこの地で親しまれています。

そして愛犬との散歩で立ち寄る公園には「めぐり逢ひて 見しやそれともわかぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな」という紫式部の歌碑が……。

こんな日々を送るうちに、だんだんと平安時代を身近に感じるようになったのです。

放送中のNHK 大河ドラマ「光る君へ」では、『源氏物語』の作者、紫式部の生涯が描かれています。ドラマをきっかけに、舞台である平安時代の京都にもさらなる関心が集まることでしょう。