ベートーヴェンとゆかりの深い老舗カフェ

 ウィーンにあるカフェ『フラウエンフーバー』は、1824年創業のウィーン最古といわれるコーヒーハウスを今に受け継いでいます。さらに歴史を遡ると、14世紀頃この場所には公衆浴場があり、1788年には女帝マリア・テレジアの専属料理人、フランツ・ヤンが高級レストランを開業しました。その後、カフェとしての道を歩み始めます。

 しかし、何よりこのカフェを特別にしているのは、1788年に2階のサロンでモーツァルトが演奏し、1797年にはベートーヴェンが演奏したという歴史的事実です。カフェにとっては大きな誇りであることを、店の外壁にある大理石に刻まれた説明書きが物語っています。

 ナポレオンの翌年に生まれたベートーヴェンは、すでに時の人だった15歳年上のモーツァルトを目標に励みました。そしてドイツからウイーンに渡り、努力を重ねて名声を得るまでになります。その後、自由のために戦う勇敢なナポレオンに刺激を受け、あの名曲を生み出しました。様々な歴史的英雄たちの想いが交錯するあの時代に思いを寄せると、たった一杯の珈琲がとても贅沢なものに感じられてきます。

『フラウエンフーバー』は2000年に全面改装されてモダンになり、ベートーヴェンやモーツァルトが演奏した頃の面影はもうありません。しかし、かつての物語と品格はいまなお大切に受け継がれています。

(Aya Kashiwabara)