世界各国のバイクメーカーがフラッグシップマシンを参戦させる「FIMスーパーバイク世界選手権(WSBK)」。2024年シーズンの第3戦はオランダのTTサーキット・アッセンで4月19日(金)〜21日(日)に開催されます。今回は第3戦・アッセンのレースプレビューをお届けします。

今シーズンのWSBKカレンダーで、いわゆるフライアウェイ戦は開幕戦のフィリップアイランド(オーストラリア)の1戦だけ。残り11ラウンドは全てヨーロッパのサーキットで開催される日程となっています。第2戦のカタルーニャ(バルセロナ)は開幕戦のフィリップアイランドとはまた異なる勢力図となりました。

大型移籍が相次いだ今季、ついにその移籍組が第2戦で本領を発揮。2021年のWSBKワールドチャンピオン、トプラク・ラズガットリオグル(BMW)がポールポジションを獲得。レース1ではルーキーのニッコロ・ブレガ(ドゥカティ)とのバトルを制して優勝。続くスーパーポールレースでも優勝を飾りました。レース2でラズガットリオグルはドゥカティワークス2人の先行を許すも3位。全てのレースで表彰台に登りました。

第2戦を終え、決勝メインレースのウイナーはニッコロ・ブレガ(ドゥカティ)、アレックス・ロウズ(カワサキ)、トプラク・ラズガットリオグル(BMW)、アルバロ・バウティスタ(ドゥカティ)の4人。昨年まではワールドチャンピオン獲得経験を持つ3人が表彰台を分け合う展開でしたが、今年は本当に勢力図が読みづらい混戦になっています。

しかしながら、第2戦で見えてきたのは「王者ドゥカティ vs BMW」という構図でした。特にBMWは2021年のマイケル・ファンデルマーク(BMW)以来3年ぶりの優勝。といってもこれはスーパーポールレースでの勝利でしたから決勝メインレースでの優勝というと、2013年のチャズ・デイビスの優勝以来11年ぶりのことでした。

BMWは同社初のスーパーバイクマシン、BMW S1000RRを2013年までワークスチームで参戦させていました。その後はプライベーターが使用する体制で参戦をしてきましたが、2019年からは再びワークスチームでの参戦を再開。そして2021年からは同社の4輪車スポーツモデルで使用される「M」の称号を冠したBMW M1000RRを投入しました。

しかしながら、そのポテンシャルがWSBK最強レベルに達することはなく、時折、モディファイされたパーツがうまく機能したタイミングやトリッキーなコンディション下で好成績を残すのみで、シーズン全体的には苦戦している印象でした。昨年は一度も表彰台を獲得できずに終わっていたのです。

そこに降って沸いたような2021年王者トプラク・ラズガットリオグル(BMW)のヤマハからの移籍。優勝争いができる気配ゼロの中での移籍でしたから、ヤマハからMotoGPへの道を断たれたことでヤケクソ状態になったのか、あるいはBMWがMotoGPに参戦する布石なのか、など様々な憶測を呼ぶ移籍でした。

BMWがトプラクの才能を求めていたということは間違いありませんが、さすがにトプラクほどのトップライダーが何のエビデンスもなく移籍するわけがありません。実際にBMW M1000RRは全日本や鈴鹿8耐でも走っていますが、関係者からはベースマシンの素性は非常に良いという意見を聞きます。耐久レースでもFIM EWC(世界耐久選手権)で耐久のワークスチームが昨年ランキング3位という速さと信頼性を示していますから、戦闘力は高い車両なのです。

しかし、WSBKでこんなに早い段階でトプラクの移籍効果がでるとは思いませんでしたね。BMWの戦闘力アップはレース2でマイケル・ファンデルマーク(BMW)がトプラクに次ぐ4位に入ったことからも分かります。

さて、第3戦はオランダのTTサーキット・アッセンでの開催ですから、マイケル・ファンデルマーク(BMW)の地元になります。ようやく大きな怪我から回復し、今季はトップ10のフィニッシュが5回と復調は明らか。アッセンではホンダ時代、ヤマハ時代に何度も表彰台に上がった母国コースになるので注目です。

一方で第2戦・バルセロナでは、日本のメーカーがMotoGP同様に外国車勢に押され気味になってしまいました。ヤマハに移籍したジョナサン・レイ(ヤマハ)はようやく今季最高の結果が出ましたが、順位は8位と悪戦苦闘中。このままドゥカティ、BMWに差を付けられていってしまうのか、それとも開幕戦でカワサキが躍進したように混戦の戦いとなるのか、今回のアッセンはシーズンの一つのキーポイントになりそうです。

文:辻野ヒロシ