時間にルーズで約束を守らない、部屋が散らかしっぱなし、お金にだらしない。マイナスイメージだらけだが、そんな“だめな人”の集団が増えているという。その名も、「だめライフ愛好会」。ネットで探してみると、全国の大学などで70以上も存在。アカウントには「だめがだめでいられる場所作り」との文字が。

【映像】取材に遅刻…だめライフ愛好会の活動の様子

 取材に訪れたのは、東京大学。「だめ」とは無縁のように思われる日本の最高峰の大学だが、待ち合わせをした3人は約束時間の15分後に現れるだめっぷり。平気で遅刻してきたと思いきや、始めたのはコマのおもちゃ。遊んでるようにしか思えないが、これもれっきとした会の活動なのか。

「目的がなくても変なことをしていたり、何かをしている人がいたほうがキャンパスは絶対おもしろい。原始的な行動として、みんなで鍋を囲むとか、こまを回すということがあると思っている」(北さん)

 他にも構内でザリガニ釣り、無許可で作物を栽培。「社会通念的にだめとされていることを1つずつやってもいいんだと、実行・実践していこうと。排除することなくありのままを受け入れられる、“だめがだめでいられる場所”を作るということが1つの目標」(主宰の大杉さん)。

 なぜこうした活動が増えているのか。愛好会を立ち上げた当事者に『ABEMA Prime』で話を聞いた。

■なぜ設立? 「だめで汚い人間の居場所が失われている」

 2022年1月に「中央大学だめライフ愛好会」をいち早く創設し、今は大学の枠を超えた「だめライフ神奈川」として活動する山田さん。注目を集めた山田さんのnoteによると、所属するゼミでだらしなさを糾弾された際の「だめで何が悪い」という思い、出席の厳格化やビラも自由に貼れないなど、大学や社会が清潔化しだめで汚い人間の居場所が失われていることに対する「変えたい」という思いがあるという。

 活動内容は、大学構内での鍋会やビラ配り、ベンチで寝るなど、大学側が「だめ」と言いそうなこと。また、駅の公共スペースを使うこともあるというが、人に迷惑をかけるのは「よくない」という考えはあるそうだ。

 70以上もの団体に広がりを見せていることについて、山田さんは「Xでアカウントを作れば名乗れるような気軽さがあり、やはりネットの存在が大きいと思う。もう1つは、『だめ』という言葉自体が普遍的で、非常にキャッチーであること。真面目な人でもだめな要素は1つぐらい持っていると思うので、そういうところも受けているのではないか」との見方を示した。

 「東京農工大学だめライフ」を主宰する高橋さんは「他のだめライフさんの企画に参加していることを公言したり、“東京農工大学にはこういう人がいる”という意思表示をしているが、いずれは自分で企画したい。すでにできているだめライフが男性ばかりだったので、女性も参加しやすいように」という思いだ。

 目指しているのは、法律以上に常識で締め付けられることのない社会。「例えば、スーパーで好物が特売になっていたら、うれしくてレジの人にお礼を言いたくなる。そんな時に“変な人に思われないか”という気持ちが働いたり、常識に縛られて言えなかったりする。そういうことの積み重ねが社会を窮屈にしているのではないか」という問題意識を明かした。

■“だめ”活動は以前からあったもの?

 「だめライフ」が広がる背景として、ライター・編集者・ラジオ司会者の速水健朗氏は「1990年代に『だめ連』というものがあった。お二人はその影響を受けているのでは」と推察。山田さんは「まさに“だめ”ライフのだめはそこから取った」と答える。

 だめ連とは1992年、早稲田大学の同窓生だった神長恒一氏とぺぺ長谷川氏が設立した、「普通に働けない」「家族を持てない」などのだめを否定的に捉えず自由に生きようとする生き方模索集団。広場での交流会、機関紙や雑誌で思想を発信していたが、今はデモや路上交流会、トークイベントなどで活動しているという。

 速水氏は「自分たちは資本主義に乗っからないぞという、いわゆる社会運動だった。積極的にボイコットするのではなく、ちょっとダメな人たちが集まって話す場を作ったり、鍋をやったり、高円寺の駅前に集まったり。それが2000年代に引き継がれ、SEALDsに影響を与えたりもした、大学生や若者の社会運動のベースになっている。良い大学の先輩たちがすでにやっているように、エリートたちがやるから意味があるんだというような文脈も少し入っている」と説明する。

 世の中が「ちゃんとしすぎ」なのだろうか。ハラスメントへの意識の高まりから、叱れずにコミュニケーション不足になり人が育たなくなったり、なんでもかんでも「◯◯ハラ」と言われたりする。コンプライアンスを遵守するため思考停止してチャレンジしなかったり、道徳を重視しすぎてハメを外すことも許されないような風潮もある。

 若い世代に政治参加を促す「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子氏は「“だめなことだけど実は意味がある”と説得するのではなく、“ダメなことだけど必要だ”“それが楽しい”という考え方がすごいというか、そういう道もあるのか」と感心する。

 お笑いコンビ・EXITのりんたろー。は「しっかりしている人っていうフリがあることで、“だめ”が生きてくる」とコメント。相方の兼近大樹は「お笑い芸人としてテレビに出ているから、思ったことを人に言いやすい。並んでいる列を抜かされても、『俺並んでたけどね』って言える。だめライフも同じようなもので、(自認することで)メンタルが保たれるかもしれない」との考えを述べた。

 パックンは「だめライフ愛好会の活動は、芸術家と芸人が前からやっていること」と指摘。「立川談志師匠に可愛がってもらったが、師匠はどこでも寝そべって見る。三越前で寝だすから、『僕も寝てみる』と。そういう常識破りに一般の方々も挑戦することは推進したい」とした。(『ABEMA Prime』より)