今年に入って円安に歯止めがかからない。4月29日には、およそ34年ぶりの円安水準を更新した。政府・日銀による為替介入の可能性も指摘されているが、効果はあるのだろうか?

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 最大10連休となる今年のゴールデンウィーク。出国ラッシュのピークを迎えた初日。多くの人でにぎわう羽田空港だが、海外へ向かう人たちから聞こえてきたのは、記録的な円安に戸惑う声。

 「両替したときにビックリした。これだけにしかならないんだって。チップが足りるかな」(アメリカに行く女性)

 こうした中、4月29日午前、円相場が一時1ドル=160円台まで急落。およそ34年ぶりの安値をつけた。だが午後になると一転して、一時154円台へとおよそ6円も急上昇するなど乱高下を繰り返した。

 市場関係者からは、政府・日銀による為替介入の可能性が指摘されている。

 日銀が4月30日に公表した当座預金の残高に関する資料では、市場が事前に想定していた額と5兆円を超えるズレが生じていることから、この日(4月29日)5兆円規模の「円買い介入」が行われたという観測が強まっている。

 円安が加速すれば、物価の上昇につながり、実質賃金の低迷が長引くおそれがある。

 1ドル=140円台から150円台の水準の円安が続いた場合、家計の負担額が年間で10万6000円増加するという推計も(みずほリサーチ&テクノロジーズから)。

 今の円安には日米の金利差が大きく関係しているため、政府が為替介入を行ったとしても、効果は一時的なものに過ぎないとの見方もある。

 アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は金融政策を決める会合「FOMC」を開催し6会合連続で政策金利を据え置くことを決定。会見でパウエル議長は利下げが遠のいたことを示唆した。

 日米の金利差にこれ以上の変化は生じないということで、為替相場に大きな変化はなかったが、会見を終えて40分ほど経った日本時間午前5時過ぎに円相場は急騰。市場では介入が行われたという観測が出ている。

 一時1ドル=160円まで円安が進んだことについて元日経新聞記者で経済アナリストの後藤達也氏は「日米の金利差の影響が大きく、アメリカは金利5%台が長く続くとの見方がこの数カ月でかなり増えてきた。一方、日本は3月にマイナス金利を解除したと話題にはなったが、ほぼ0だ。これだけ差があるので、『150円でも160円でもなるべく金利のつくドルを買っておこう』と買い上がるような動きが続いた。ただ、この1週間ほど、あまりにもこのスピードが早すぎたため、政府自身が数兆円規模のドルを売って円を買うというような介入をしたとの見方がかなり強まっている」と説明。

 その上で、その効果については一時的という見方を示した。

 「対症療法というか絆創膏的なところがある。一時的に傷を押さえることはできるが、根本的な要因は金利差や日本経済とアメリカ経済の強さであるため、長い目で見ると円安圧力が戻りかねない。例えば、今年中にまた160円台をつけて、165円くらいまで進んでしまう可能性も十分残っている」

 日本政府や日銀には他の打ち手はあるのだろうか?

 後藤氏は「円安を気にして日銀が利上げをすれば金利差が縮まって円安が止められるという見方もあるが、先週の日銀の会合において植田総裁は『円安自体を受けて利上げすることは考えていない』という趣旨の発言をしたことでさらに円安に弾みがついた形だ。その点でいうと、本格的に円高に戻るかどうかはアメリカの要因が重要になる。アメリカでインフレが落ち着いて金利が下がっていくことになれば、根本的に円高に振れやすいが、日本側が主導的に円安に歯止めをかけるのは難しい状況になってしまっている」との見方を示した。

 そんなアメリカの状況はいつまで続くのか? 後藤氏は「半年ほど前まではインフレが落ち着いてきそうだと、2%という目標の展望がかなり開けているイメージだった。ところが、なかなかインフレがしぶとく、3%〜4%が長く続いており、いつ収まるのかわからない。インフレが続いている要因は色々あるが、賃金が高いことでサービス価格の値段がなかなか収まらないことも大きい。アメリカの経済の強さの裏側でもあるが、結果として金利も高くなってしまっている。日本を主語にしてみるとどうしても円安が続きやすくなっている」と説明した。

 円安が続けば、私たちの生活にも影響が大きくなってくる。

 「海外旅行が高くなることに加え、食料品や電気代などはおそらく数カ月後に再び値上がりするだろう。どうしてもネガティブな部分は多いと思うが、円安のメリットもある。具体的には輸出企業は利益が増え、観光業の関係者には大きな利益が出ているところもある。そういった輸出企業や観光業界が雇用や給料を増やしたり、取引先との価格設定で相手をもう少し慮るようなことが広がれば日本全体にも恩恵が出やすいだろう」

 デメリットがあまりにも大きく、バランスが崩壊する可能性はないのだろうか?

 後藤氏は「電気代・食料品は必需品であり、多くの人にとって負担すること。一方で、恩恵はみんなに来ているのかというと、輸出企業に勤めてる人や株式投資をしている人などかなり一部の人になる。全体では、仮にプラスマイナス0だったとしても、不満を感じる人は増えてしまうので、言わば“円安格差”みたいなものが生まれるリスクはあり、重たい問題だ」と指摘した。

 メリットとデメリットを考えた時、日本経済で多くの人が幸せを感じられる、“理想の相場“はどのくらいなのか?

 後藤氏は、「おそらく130円くらいだ」と分析する。

 「分析は難しく、人にもよるが、おそらく130円ぐらいが全体として不満が起こりにくいだろう。反対に2010年前後の1ドル=70円台、80円台の時は“円高不況”で、なんとか円高を脱しなければ、といわれていた。当時は輸出企業が儲からず、工場なども海外に出ていく動きがあり、それはそれでよくない状況だった。そのため、現在は円安=悪というイメージだが、円高になればいいというわけでもない。1ドル130円ぐらいの水準になればいいが、日米の金利差の問題があるため、なかなか戻りにくい状況だ」

 円安がしばらくこのまま続くとなれば、日本の働き方や産業構造も変わっていくのだろうか?

 「インフレや賃上げが起こるのは産業構造が転換していくということ。採算の高い分野に人やお金が集まるという世界だ。そのため、例えば輸出企業やインバウンド関連に人がスムーズに流れれば、経済全体としても安定し、1人1人の所得も全体としては増えやすくなるだろう。ただ、1人1人の生活という観点からすれば、これまでやっててきた仕事をいきなり辞めて人手不足の業界に移ることは難しいため、数年間にわたって摩擦は生じてしまうだろう」と推測した。

 円安が続けば、留学や旅行などの費用も高くなる。後藤氏はその影響について懸念を示す。

 「元々、海外留学はこの10年ぐらいで減っていたが、円安も重なると、アメリカの一流大学の授業料は相当高くなってしまう。個人でも企業派遣でも難しくなる。グローバルな経験を積んだ人材が増えることは日本全体にとっても大切なことであるため、水を差してしまう面はある」

 さらに、私たちの資産を守る方法について後藤氏は「例えば、持っている資産の3割程度を外貨、アメリカの株やドル預金にしておけば、円安が進んでも資産は目減りしづらい」とアドバイスする。その一方で、「投資信託系で今、月に1兆円くらいのペースで海外の株が買われている。それが円安に拍車をかけている面もある。みんなでNISAで外国株を買おうとすると、今の円安の問題はより悪化してしまう可能性もある。例えば、外国株だけでなく、日本株を買うのも1つの方法だ。日本株は円資産ではあるが、日本で上場している企業の半分以上は技術企業であるため、円ではあるが海外経済に影響を受けやすいため、円安が進んだとしてもその備えになる面はあるだろう」との見解を示した。

 最後に後藤氏は「最近は賃金も上がり始めており、従業員に優しい働き方が全体的に増えてきている。そういった従業員や取引先を思う気持ちが良い形で広がっていけば、経済も国民の日々の暮らす気持ちも明るくなるだろう」と期待を示した。
(『ABEMAヒルズ』より)