北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記を呼び捨てにして、国民との親近感を演出したとされる歌謡曲「親しいオボイ」の映像に、「SONY」のマークがついたヘッドホンや、日本メーカー製とみられる電子楽器などが映っていた。いずれのメーカーも北朝鮮への輸出を否定している。詳しい経路は不明だが、民間の取引を通じて、北朝鮮に持ち込まれたとみられる。

 映像は朝鮮中央テレビが4月に放映した。オボイは北朝鮮で最高指導者を指す場合によく使われる、アボジ(父)とオモニ(母)を掛け合わせた言葉だ。軍人から工場労働者、高齢者まで様々な人々が登場し、「歌おう金正恩、我々の領導者」「誇ろう金正恩、親近なる我々のオボイ」などと歌っている。北朝鮮では「敬愛なる金正恩同志」などとメディアで報道されるのが一般的で、最高指導者が呼び捨てにされる映像は極めて異例だ。

 曲は4分足らず。1分40秒過ぎくらいから、「SONY」のマークがついたヘッドホンを着用する人の姿が確認できる。「Roland」「07」というマークが入った楽器のほか、「KORG」「KRONOS」というマークがみえる楽器を演奏する演奏家たちの姿も映っている。日本の有名メーカー、ローランドやコルグのシンセサイザーとみられる。

 金正恩氏は音楽好きとされ、2012年には、お抱えの牡丹峰(モランボン)楽団を発足させた。在日2世で、作曲家・音楽プロデューサーとして北朝鮮との音楽交流に携わった李喆雨(リチョルウ)コリア・アーツ・センター代表によれば、牡丹峰楽団の楽器はやや古いタイプのものが多いという。李氏は「おそらく中国経由などで日本の楽器を手に入れているのでは」とみる。

 日本政府は人道支援などの例外を除き、北朝鮮との輸出入を全面的に禁じている。

 ローランドの広報担当によれば、映像の製品は17年に発売した同社のシンセサイザーのようだという。同社は「当社において、輸出の際は外為法に従い、厳格な該非判定の運用を行っており、北朝鮮への輸出の履歴はございません」とした。該当製品は中国では販売されているものの、「入手された経路、時期ともに当社では判断いたしかねます」とコメントした。

 ソニーグループの広報担当は朝日新聞の取材に「ソニーは、輸出入規制を含め、事業に適用される法令を順守しております。北朝鮮との取引はございません」と回答した。コルグも「動画だけで弊社の製品であるかどうか特定することができません。輸出した事実は全くありません。(北朝鮮が入手した経路も)全く心当たりありません」とした。(牧野愛博)