【岩手】藤原清衡が中尊寺に奉納した「紺紙金銀字交書一切経(こんしきんぎんじこうしょいっさいきょう)」のうち、所在が知られていなかった「仏説無所希望経(ぶっせつむしょきぼうきょう)」が、約400年ぶりに「里帰り」をした。中尊寺金色堂建立900年を記念して、平泉町の平泉世界遺産ガイダンスセンターで開催中の展示「清衡の平泉」の目玉だ。

 紺紙金銀字交書一切経は1126年、中尊寺建立の法要に際して藤原清衡が奉納した。紺色の紙に1行ずつ、金文字と銀文字で経文が書き写され、美術価値が高い。

 本来は約5300巻あったが、豊臣秀吉の意向で16世紀末に持ち出され、その大半が金剛山金峯寺(和歌山県)にある。中尊寺には20巻ほどしか残っていない。

 仏説無所希望経は、静岡県の伊豆山神社が所蔵する。細かい経緯は不明だが、江戸時代に高野山から移されたとされる。県の有形文化財だが、これまで学術的な調査が十分にされていなかった。だが、今回の展示にあたり、東北大学名誉教授で仏教美術学者の有賀祥隆さんが確認したところ、清衡が奉納した一切経の一部だと判明した。

 経巻は長さ約8メートルで、「一切の希望を超越して初めて、仏法の教えを真に理解できる」と説かれている。センター上席専門学芸員の羽柴直人さんは「清衡の財力や信仰心が伝わる貴重な史料。清衡の理想とした世界への思いを感じ取ってください」と語る。

 8月25日まで展示され、期間中休館日はない。入場料は大人310円、学生140円、高校生以下は無料。関連事業として、平泉町学習交流施設エピカで、講座や講演会が開催される。(伊藤恵里奈)