その発表はX(旧Twitter)で行われ、短く、要点を押さえたものだった。「スクーデリア・フェラーリHPは、5月13日(月)より、シャビ・マルコスがF1チームのレースエンジニアとして得た貴重な経験を、他の重要な企業プログラムの開発に活かすことを発表する」

 この決定については何の説明も理由も述べられていないが、メディアにこの変更が知られる前にスクーデリアが発表することを選択したという事実は、これがレースチームの単純な再編成ではなく、単に駒を次のマスに移動させる以上の意味があったことが示されている。

 非常に気さくな人物であるシャビエル・マルコス・パドロスは、2019年初頭にシャルル・ルクレールがチームに加わって以来、彼のレースエンジニアを務めてきた。当時の彼はF1や、現在のピットウォールでは珍しいことにNASCARでも9年の経験を積んでいた。彼が比較的若く、振る舞いが物静かであることは、ルクレールの気質に非常にうまく作用したようだ。

 ルクレールはすべての情報を取り入れ、指示されたことを実行した。彼らは2019年と2020年の2年間では、はるかに経験豊富なセバスチャン・ベッテルとリカルド・アダミのペアを上回っていた。

 ルクレールの進歩は驚異的であり、彼の要求は変化し始めた。ルイス・ハミルトン(メルセデス)やフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)、僚友のカルロス・サインツ(フェラーリ)がよくするように、コクピットからチームを指揮するようなドライバーではないルクレールは、今や多くの質問をし迅速かつ決定的な答えを求めている。

 慎重なエンジニアであるマルコスの特徴的な「チェックしているところだ」という発言から、最終的にふたりは離れ始めた。ルクレールはアダミとサインツの関係が自身とマルコスの関係よりも優れていると感じていたため、マシンからピットウォールを批判することがますます頻繁になった。

 自身もエンジニアであることから技術者のマインドを持つフレデリック・バスール代表は、ルクレールとマルコスの関係がチームにダメージを与える前に迅速な行動を起こし、レースエンジニアを変更することを決意したのだろう。ルクレールをよく知るバスールは、現在彼がフェルスタッペンの相棒であるジャンピエロ・ランビアーゼに似た鋭い気質を持つレースエンジニアを必要としていることを理解しており、ブライアン・ボッツィを後任に選んだ。

 ボッツィも2019年の初めからルクレールのエンジニアリングチームに加わっていた。彼はパフォーマンスエンジニアを務めてきたため、ふたりはお互いをよく知っている。チーム関係者によると、ルクレールがマルコスと一緒だったときよりも、お互いに調和しているということだ。

 フェラーリで12年以上の経験を持つイギリス人のボッツィは、マルコスよりも自己主張が強く、ルクレールに一定の指示を与えることができると言われてる。ルクレールはサインツよりもかなり多くの指示を受ける必要があることから、バスールはすぐにこの変更を行うことを決めた。

 次戦のイモラ(エミリア・ロマーニャGP)はフェラーリのホームレースであり、その1週間後にはルクレールのホームレースであるモナコGPが開催されるため、ボッツィにとっては厳しい試練となるだろう。彼がこのふたつのテストに見事に合格すれば、バスールは賭けに勝ち、ルクレールは疑う余地のないポテンシャルを解き放つことができるだろう。