控え選手の気持ちを理解



立大4回戦の3回裏。逆転二塁打を放った慶大の四番・清原はスタンドに向かって指を差した[写真=菅原淳]

【5月8日】東京六大学リーグ戦(神宮)
慶大3-2立大(慶大2勝1敗1分)

 仲間への「思い」が詰まったシーンがあった。

 ゲームを前にした30分の打撃練習。ベンチ前でウォーミングアップをしていた清原正吾(4年・慶應義塾高)はいったん、動きを止めた。打撃練習をサポートする控え部員がグラウンドイン。清原はこれ以上ない笑顔で出迎え、抱擁した。メンバーのために手伝ってくれる「感謝」を、心から伝えたのである。

 慶大は4学年で部員200人の大所帯。ユニフォームを着られるのは25人である。ほとんどがサポート役に回るわけであるが、彼らの意識レベルが相当、高いのだ。応援席を見れば分かる。慶大の野球部員による応援は間違いなくトップ。昨秋、清原はその一員だったからこそ、控え選手の気持ちを理解できる。

 中学時代にバレーボール部、高校時代はアメリカンフットボール部に在籍。慶大入学後、小学生以来の野球に触れた。6年のブランク、硬式野球でさえ初めての経験だったが、血のにじむような努力で3年春、ベンチ入りを勝ち取った。先発出場も果たし、リーグ戦初安打を放ったが、現実は厳しかった。メンバーに定着できず、シーズン途中に登録から外れた。4季ぶりのリーグ優勝、4年ぶりの明治神宮大会制覇を遂げた秋も、ユニフォームを着ることはなかった。グラウンドでは目の前の課題に取り組み、神宮では応援席の最前列で盛り上げ役に徹し、メンバーを後押しした。

 清原は慶應義塾体育会野球部に浸透する「文化」について、こう語ったことがある。

「慶應の野球部の良さは、チーム全員が勝利に関わっていること。今年のチームスローガンにも『ALL IN』というフレーズがありますが、各々の立場で、200人以上の部員全員が全力で勝利を追求しているんです」

 学生ラストシーズンとなる今春、清原は「四番・一塁」のレギュラーを獲得。開幕から東大、法大、立大と3カード連続で勝ち点を挙げ、早大と並んで、勝ち点3とした。

「父親に『やってやったぞ! 見たか!』」



父の現役時代を参考に、バットを指一本分短く持つ[写真=菅原淳]

 立大4回戦では、1点を追う3回裏一死満塁から逆転の2点適時二塁打を放った。チームは5回表に追いつかれるも、8回裏に常松広太郎(3年・慶應湘南藤沢高)の勝ち越し打で、2勝1敗1分で勝ち点を挙げた。清原は9試合を終えてチームトップの10安打、6打点、打率.270と打線をけん引している。

 二塁打を放った際、清原は二塁上でスタンドに向かって指を差した。2つの思いがあった。

「ベンチ外で応援してくれる人がいなければ、僕たちはここまで頑張れない。かけがえのない存在。『ありがとう』の気持ちを込めた」

 そして、もう一つ、感情を込めた。

「父親に『やってやったぞ! 見たか!』と」

 ネット裏ではNPB通算525本塁打の父・和博さん(清原和博、元オリックスほか)が観戦。息子の殊勲打を見届けると、笑顔を見せていた。

 父の現役時代を参考に、バットを指一本、短く持つ。

「一番の目標としては、神宮で本塁打を打って、ホームランボールを家族に渡したい」

 開幕前に語っていた本塁打への思い。試合を重ねるにつれて、明らかに打撃の内容が向上している。リーグ戦秋春連覇へ、残すカードは明大と早大。「四番・清原」の存在感は増すばかりだ。

文=岡本朋祐