増えている出場機会



5月10日のヤクルト戦では971日ぶりの本塁打を放った小林

 野球人生はどう転ぶか分からない。巨人・小林誠司が輝きを取り戻している。

 原辰徳監督が指揮を振るっていた昨年までは、強打に定評がある大城卓三が正捕手の座を築いていた。かつて正捕手だった小林は2020年以降に出場機会が大幅に減少。昨年は21試合出場で打率.125に終わった。「自分自身、このままではダメだと重々承知しているので、何か変わったなと思われるように。体も心も強くなれるように頑張りたい」。昨年12月はジャイアンツ球場や東京ドームでトレーニングなどに打ち込み、「基本的には(練習は)1人。終わってから1人でサウナに行って考えています」と自分自身と向き合っていた。

 阿部慎之助監督が就任し、背水の陣で迎えた今年。開幕から1週間は大城が先発マスクをかぶっていたが、その後は小林のスタメン出場が増えていく。同学年の菅野智之が登板した全6試合でバッテリーを組み、4勝0敗、防御率1.37。ソフトバンクからトレード移籍の高橋礼ともコンビを組む機会が多く、2勝1敗、防御率1.37と復活をアシストしている。「勝てる捕手」が一番の存在証明になる。エース・戸郷翔征ともバッテリーを組むようになり、ここまでチーム最多の15試合で先発マスクをかぶっている。一方、自慢の打撃で打率.188と精彩を欠く大城は5月8日にファーム降格。岸田行倫と共に小林の出場は今後も増えていくだろう。

攻守走にハツラツとプレー


 20年以来4年連続打率0割台、1割台だった打撃でも貢献している。10日のヤクルト戦(神宮)では1点リードの7回に好投手のヤフーレから左翼席へ今季初アーチ。21年9月12日の広島戦(マツダ広島)以来971日ぶりの一発が勝利へ貴重な一撃となった。11日の同戦でも4回に左翼線適時二塁打。22年9月23日の中日戦(バンテリン)以来596日ぶりの二塁打で4点差に突き放した。

 他球団の首脳陣は「ミート能力では大城と比べると見劣りしますが、小林はパンチ力がある。甘く入ったらスタンドに運ぶので気が抜けない。今はリズムよくプレーしているので打撃も怖い。小林が打つとチーム全体が盛り上がるので勢いに乗せたくないですね」と警戒を強める。

 打って、守って、走って――。走塁でも執念を見せる。12日の同戦では同点の7回に先頭打者で四球で出塁すると二盗に成功。門脇誠の右飛でタッチアップし、豪快なヘッドスライディングで三塁に進んだ。得点は入らなかったが、小林の気迫十分のプレーに三塁ベンチは大盛り上がりだった。

評価される指揮官の捕手起用法



ハイレベルな正捕手争いがチーム力を高めていくことになる

 球団OBで野球評論家の廣岡達朗氏は、週刊ベースボールのコラムで阿部監督の起用法を高く評価している。

「私ならまず投手を作る。そこで必要なのはライバルの存在。ライバルがいるから人間は発奮するのだ。そういう意味では巨人は今季、大城卓三からレギュラーの座を剥奪し、小林誠司と併用するようになった。岸田行倫を含めて3人で競わせている。原辰徳前監督は打力ばかり重視して大城を起用した。しかし阿部慎之助監督の方針は投手を育てる捕手を使うということだ。捕手出身だけに、分かっている。大城は捕手として原点に戻って這い上がればいい」

 小林が100試合以上出場したシーズンは18年にさかのぼる。同年は4月7日ヤクルト戦(神宮)で左腕・石川雅規から左翼席にプロ初の満塁本塁打を放つなど、4月終了時点で打率.357、1本塁打、13打点をマーク。しかし、5月以降は打撃が下降線をたどり、最終成績は119試合出場で打率.219、2本塁打、26打点。守備で3年連続リーグトップの盗塁阻止率.340をマークしたが、課題の打力がネックとなり翌年以降は正捕手の座を明け渡す形となった。

 6年ぶりの正捕手奪取へ。大城も心身をリフレッシュして早期の一軍昇格が期待される。リーグ優勝をつかむチームは有能な捕手を複数そろえている。正捕手を巡るハイレベルな争いがチーム力を高める。小林の真価が問われるのはこれからだ。

写真=BBM