木製バットで飛ばす長打



187センチ96キロ。恵まれた体格からの飛距離が持ち味。17歳とは思えないパワーと、木製バットの対応力がある[写真=BBM]

 打撃投手を務めるGXAスカイホークス・副島孔太監督(元ヤクルト、オリックス)のボールに、神経を研ぎ澄ます。1セット5本のフリー打撃。右打席に立つ木村翔平は「1本目です!」と毎回、コールしてから構えに入る。

「1球1球が、意図があるものにしないといけない。試合でも、1打席であるかないかの1球を仕留めることが、必要になってきます」

 左手の動きを、強く意識している。「背中に引く癖があるので、ピッチャー側に返していくイメージです。ドジャース・大谷翔平さんもよくチェックしているポイントです」。両翼95メートル、中堅120メートルの大和スタジアムの左翼フェンスを楽々と越える。中越えの推定135メートル弾も珍しくないという。しかし、力だけには頼らない。試合での好機を想定して、センター中心の打撃も意識的に行う。バットコントロールが秀逸である。

 副島監督から「シンプルに強く」の指導の下、今年1月以降、左足を上げない打撃フォームに改良すると、体のブレがなくなり、コンタクト率が劇的に上がった。逆方向への長打も持ち味で、独立リーグとの練習試合では、右中間スタンドへたたき込んだこともある。

 GXAスカイホークスに転入して以来、対外試合40試合で7本塁打。すべて木製バットであり、17歳とは思えない対応力とパワーを見せつけている。副島監督は「体に恵まれており(187センチ96キロ)スケール感がある。バットも振れる。なかなか練習だけでは身に付かないポテンシャル。高校3年生と同じ世代で、木製バットであそこまで飛ばすのは、あまりないと思います」と期待感を語る。

掲げる目標は「プロ一本」


 神奈川県生まれ。小学校時代に在籍した上鶴間ブラックスでは通算55本塁打。中学時代にプレーした座間ボーイズでは15本塁打を放った。高校は県外の強豪校に進学し、早くからレギュラーメンバーに入ったものの、諸事情により、9月に退学した。

 野球が嫌いになったわけではない。プロ野球選手の夢を、あきらめるわけにはいかない。両親は木村のために、新たなプレーの場を探してくれ、10月にGXAスカイホークスの「高校生コース」に加入した。午前中から昼にかけ、週6日の練習を消化しながら、学業面では日本航空高の通信制課程を履修。神奈川県高校野球の試合会場である大和スタジアムを使用でき、恵まれた環境で活動している。

 GXAスカイホークスは神奈川県大和市を拠点とする硬式野球クラブチーム。高校卒業に加え、希望進路を実現させるため、それぞれの内容に特化した取り組みを実践する。社会人野球、社会人クラブチームへの練習参加、独立リーグのトライアウト、NPBドラフトなどをサポートし、各選手が硬式野球継続を目指している。

 木村の目標は、加入以来「プロ一本」と、副島監督に熱い思いを伝えてきた。「目指すことで、視野も広がる」(副島監督)。チームでは今年から主将を任され、円滑にチームを回すことを学び、人間的な幅を広げている。2024年のNPBドラフトで指名を受けるためには何ができるのか――。指導者の意見に耳を傾け、試行錯誤しながら日々を過ごしている。

好きな言葉は「努力は必ず報われる」


 GXAスカイホークスは野球の競技団体に加盟していないため、公式戦の機会がない。独立リーグ等とのオープン戦が、腕試しの貴重な場だ。木村は時間を見つけては硬式球対応のバッティングセンターに通い、140キロ超のボールを打ち込む。午後の通信課程の授業を約2時間受けた後は、自宅の庭に設置された鳥かごで、納得いくまで置きティーを繰り返す。オリックス・杉本裕太郎の練習法を参考に、長打力を磨いてきた。集中力を高めた豊富な練習量が、不安視された実戦不足を埋めている。相手チームを圧倒するフルスイングの源は、ウエートトレーニングの賜物だ。

 守備は三塁、遊撃を練習しており、強肩を生かした安定した送球、ハンドリングの良さが武器。大型内野手として成長著しい。

 すでにNPBの1球団が視察に訪れ、副島監督の下には複数球団から問い合わせもあり、今後、周辺が騒がしくなることが予想される。強豪大学からも熱視線が注がれており「右の強打者・木村」の名は広がりを見せている。

 好きな言葉は「努力は必ず報われる」。木村は言う。

「野球に限らず、自分のように一度挫折し、思い悩んできた人たちに、野球を通じて『やれるんだ!』というところを見せられるようにしたい。さまざまな面で支えてくれた両親にも、野球で恩返しをしたいと思います」

 純粋に白球を追う木村に、迷いはない。運命のドラフトまで、今できることに専念する。

文=岡本朋祐