『ZIP!』などのテレビ番組で活躍する気象予報士の小林正寿さん。自宅ではふとんもカーテンも持たない究極のミニマリスト生活を送っているそう。謎めいた私生活に迫ります。(全3回中の3回)

カーテンを捨てて、月明りで目覚める生活に お天気の講演会に登壇した時の記念ショットお天気の講演会に登壇した際の記念ショット

── 小林さんは、「ミニマリスト」としても知られていますよね。

小林さん:自分では「ミニマリスト」を名乗ったことはなく、ミニマリストなのかどうかはわからないんですが…。

うちにはベッドとかカーテンとか、一般的にはあって当たり前と思われているものがなくて。『踊る!さんま御殿』に出演させていただいたときに、そのエピソードを話したら、天気予報をしているときとのギャップが激しかったのか多くの反響をいただいて、いつのまにか「行き過ぎたミニマリスト」と言われるようになりました。

きっかけは鼻血なんです。僕は鼻血が出やすい体質で、あるときふとんに鼻血がついてしまって、「事件性がある」と思われたらいけないので捨てたんです。新しいふとんを買いに行くのが面倒で、そのまま床に寝ていたら、なくても困らない。カーテンも同じです。鼻血が出たとき思わずカーテンで拭いてしまって、その後に捨てました。今の方がむしろ快適です。

ここ数年、朝の生放送のために午後9時に寝て、午前0時に起きる生活をしているんですけど、カーテンがないと月明りで目が覚めるんです。ロマンチックじゃないですか。満月って眩しいんですよ。

夕方、雨上がりに虹が出たときもすぐに気づけます。みなさん、雨上がりの夕日に気をとられがちですけど、虹は東側に出るんです。うちは東側と南側に窓があるので、虹がよく見えるんです。

小林さんのお部屋の様子小林さんのお部屋の様子

── 床の上に直接寝て、体が痛くならないんですか?

小林さん:ならないです。フローリングって、僕にとってちょうどいい弾力なんですよね。ほどよく体を包みこんでくれて。仕事で地方へ行ったときはホテルのベッドで寝てみるのですが、ふかふかすぎて腰を痛めました。

もう5年くらい床で寝ていますけど、風邪もひかないし快適ですよ。学生の頃はロングスリーパーでしょっちゅう寝坊していましたが、床に寝るようになってからは目覚めがよくなりました。

国営ひたち海浜公園のネモフィラと国営ひたち海浜公園のネモフィラと

── 食器や洋服はさすがに持っていらっしゃいますよね?

小林さん:食器はないですけど、炊飯器とフライパンがあるので自炊もしています。よく作るのは回鍋肉です。包丁がないから、キャベツは手でちぎって、ネギは犬歯で噛みきります。フライパンで炒めるときは、残ったネギで混ぜればそのまま食べられて、食材をムダにしないからSDGsにつながるというか。でき上がったら炊飯器で炊いたご飯の上にのせて、しゃもじで直接食べています。

コップはプロテインシェイカーで代用しています。粉末スープなども簡単に作れて便利なんですよ。そういえば、隣の家の鍵が壊れて、住人の方が外で待たされていたので、温かいスープを差し入れたことがあります。カップルだったのにシェイカーがひとつしかないから、ひとりずつしか作れませんでしたけど(笑)。

「傘を持っていない」というと驚かれるんですが、職業柄、天気図を詳しく読めば雨に降られることはほとんどありません。必要ないから持っていないだけで、何もかも捨てようと思っているわけではないんです。仕事で必要な衣装や靴はそれなりにあります。僕は毎日番組の放送後に「反省ノート」をつけていて、分析した天気図や、予想が外れたポイントなどを書いているのですが、その100冊以上ある反省ノートもすべてとってありますし。

人と比べず、自分に正直に生きていたらいまの自分に 「人と比べない、無理をしない、自分に正直に」と語る小林さん「人と比べない、無理をしない、自分に正直に」と語る小林さん

──「自分軸」で生きていらっしゃることがよくわかります。

小林さん:そうですね。「人と比べない、無理をしない、自分に正直に」ということを心がけて生きていたら、こうなりました。偏西風が吹くことで、寒気が来たり暖気が来たりして、天気は変わります。人生も同じだな、と思います。プロフェッショナルになるには、捨てないといけないものもありますよね。物だけでなくて、たとえば今はプライベートで頻繁に飲みに行くことはできないですけど、つらくはないんです。

僕はテレビの仕事が好きですし、気象の仕事にハマっています。これからもいまのルーティンを続けていけば、自分では気づかないうちに成長できるんじゃないかと思っています。

── 気象予報士としての目標はありますか。

小林さん:「日本一思いやりのある気象予報士」になりたいということは、ずっと思い続けています。僕は全国の方に天気予報をお届けしていますが、雨が降ったら困る人もいれば、喜ぶ人もいますよね。雨だから「悪天候」とは言えません。

僕は大学時代「外食恐怖症」などのパニック障害を患ったのですが、その経験から、世の中にはいろいろな人がいることを想像できるようになって、「いろんな立場の人に寄り添う言葉を届けたい」と思うようになりました。

「晴れます」と予報したのに雨が降ってしまった日に、「天気予報を信じてくださった方に申し訳ない」という気持ちを込めて、街に出て傘を配ったこともあります。コンビニでビニール傘を買って、「よろしければ」と。名乗るわけではないので、今考えるとあやしいヤツですよね(笑)。

お天気教室の様子お天気教室の様子

PROFILE 小林正寿さん

気象予報士。茨城県常陸大宮市出身。専修大学卒業後、2012年に気象予報士となり、2013年からウェザーマップに所属する。目標は、日本一思いやりのある気象予報士。2019年より日本テレビ系『ZIP!』にお天気キャスターとして出演中。著書に『しゃもじがあれば箸はいらない』(KADOKAWA)がある。

取材・文/林優子 画像提供/小林正寿