◇渋谷真コラム「龍の背に乗って」◇26日 中日5―0ヤクルト(バンテリンドームナゴヤ)

 先発・仲地の負傷降板を除けば会心の勝利。投げては全7投手が毎回の15三振を奪い、打っては11安打で5点を挙げた。文句のつけようのない試合だからこそ「イフ」を書く。

 この日の中日は5本の二塁打を打った。見事なつなぎの野球だった。ただ、心の中で歯がゆかったのはその打球である。1、3回は石川昂が左中間に、3回はビシエドも左翼へ、そして6回は代打・福永が左翼へ。8回の村松(左翼線)以外の4本は、フェンスを直撃する大飛球だった。

 熱心な読者ならおわかりだろう。アレさえあれば、いずれも本塁打だったのだ。アレとは言わずもがな。みずほペイペイドームの「ホームランテラス」、ZOZOマリンスタジアムでは「ホームランラグーン」と呼ばれる外野フェンス前に設けられた特別席のことだ。 石川昂は「入ったという感触は全然なく、あそこまで飛んだんだって思いました」と話し、フェンスの最上部、あと10センチほどで越えていた福永も「つまり気味だったので、入ったとは思いませんでした。この前(22日の巨人戦)はギリギリファウル(リクエストも覆らず)でしたが、きょうは二塁打。いい感じで打てているので良かったです」と、さわやかな笑顔で応えてくれた。彼らは本拠地の広さを知っている。だから僕のようにタラレバをぼやいたりしないのだ。

 ちなみにそれぞれの二塁打の後も打線のつながりがよかったので、4本全て本塁打だとしても7得点。大きな違いはないのだが、それでも思う。特別席ができればいいのになと…。「中日の打者だけが打つわけじゃないんだぞ」。ごもっとも。「自慢の投手陣が数字を落とすじゃないか」。おっしゃる通り。損か得かは誰にもわからない。だけど「得するからつくりましょう」ではないのだ。

 選手は成功体験の積み重ねで成長する。広い球場の惜しいアウトより、狭い球場の詰まった本塁打で自信をつけ、飛ばすコツを覚える。スケールの大きな打者がなかなか育たぬ理由は、そこにもある。背中を押すのが特別席。だから僕はしつこく賛成の1票を投じるのである。