『余命10年』やNetflix映画『パレード』で知られる藤井道人監督が、日台合作に挑んだ。5月3日公開の映画『青春18×2 君へと続く道』は、18年前の台湾と現在の日本を舞台にした切なくも美しい青春ラブストーリー。自ら立ち上げた会社の代表を解任されたジミー(シュー・グァンハン)が訪日し、初恋相手のアミ(清原果耶)の故郷を目指す旅の中でひと夏の思い出を振り返っていく。グァンハンと清原が、日本と台湾での撮影の舞台裏や役者としての共通項について語った。

■“映画好き”という共通点から繋がる距離感

――台湾での公開時は凄(すさ)まじい熱狂だったと伺いました。グァンハンさんは藤井作品を元々ご覧になっていたそうですが、台湾での藤井監督の人気ぶりについて教えてください。

グァンハン:個人的な見方になりますが、藤井監督のストーリーテラーとしての独自の語り方と作品のテーマが、台湾の方々には合っていると感じます。台湾の人たちはギャング映画とラブストーリーが大好きで、藤井監督は『ヤクザと家族 The Family』や『余命10年』などでその両方を撮っていますよね。それが前々から人気を博していた理由の一つではないかと思います。

――清原さんは現地で「黄色い声援を浴びて驚いた」とおっしゃっていましたね。

清原:台湾の方々が私の名前が入ったパネルを掲げてくださっていたことに衝撃を受け、「私のことをこんなに知ってくださっている方がいるんだ!」と感動しました。これまでも日本での舞台あいさつやそのほかのイベントで応援しに来てくださる方はいましたし、ありがたみを感じてきましたが、台湾という土地で作品だけではなくキャストそれぞれを応援してくださる温かみに触れて、映画っていいなと改めて思いました。会場の中だけでなく「今日映画は見られないけれど応援しています」という方々が会場の外にたくさんいらっしゃっていて、夢中になってくれている姿を目の当たりにしました。

――撮影時、グァンハンさんが藤井監督に「納得できるまで何回もやろう」と声をかけたり、清原さんが脚本を何度も読み返してよりどころにしていたと伺いました。お二人の作品や監督への寄り添い方に、共通する部分は多いのではないでしょうか。

グァンハン:監督は物語を考えたりフィクションの世界を作ったりするのが仕事かと思いますが、その方法論、考え方、価値観はそれぞれ違っているものです。みなさん人間ですから、作品やタイミングによってやり方が変わることもあるでしょうし。監督によっては「自分の頭の中の映像を具現化したい」という方もいらっしゃれば、余白を持って現場で作り上げていく方もいて、一つに絞ることはなかなかできません。

となると、我々役者はそれぞれ異なる監督に接する際、どうしたらいいのか。僕の場合は、抽象的な言い方ですが、いかに同じ波長を見つけるかだと考えています。単に脚本だけではなく、「この監督はこういったものが好きなのかもしれない」、「こういう価値観を持っているんじゃないか」と一生懸命理解して、自分との共通項を探していくのです。波長さえ合えば、監督が考えている波に乗りやすくなりますから。

清原:私もグァンハンさんがおっしゃったことと基本的には同じです。ただ、藤井組に関していうと「寄り添わなきゃ」という意識は特に持っていなくて。責任感がないわけではなく、かと言って使命感を持っているわけでもない関係性といいますか…。お互いにお互いの歩幅を知っているからこそ、一緒に歩めるというニュアンスが近いように感じます。それはきっと“思い合い”ができているからなのだと思いますが、当たり前ではないことも理解しています。だからこそ藤井組が好きですし、自分に何ができるかと考える時間が多いように感じます。

――清原さんは今回、撮影の合間に藤井監督の近くにいるようにしたとおっしゃっていましたね。

清原:「藤井さんが何を考えているのか知りたい」という思いもあり、「今日の体調はいかが?」くらいのテンションでそばにいました。作品を作るうえでの感情や感覚、意識の共有をするのがすごく好きなので、楽しかったです。グァンハンさんとも、現場ではほとんどアミとジミーの距離感でいることができてとてもスムーズでした。

グァンハン:僕も現場で藤井監督との間に距離を感じることは全くありませんでした。やっぱりみんな同じように映画が好きですからね。それぞれが「いいものを作りたい」という意味での意識は持っていますし、熱量が高いなかでどう波長を合わせるかでした。そこさえシンクロしてしまえば、いちいち細かく擦り合わせる必要もなくなります。時々オフの際には冗談を言ったり、お互いにいじり合ったりする一方で、とても真面目に役について議論したりするような健全な時間でした。

藤井監督は博識な方なので、そうしたやり取りのなかでさまざまな知識を吸収できましたし、撮影時に求められることに対して「そうすればいいんだ」と刺激を受けたり、自分なりに想像してやってみることで新たな発見があるような現場でした。

■グァンハンが清原へ差し入れしたものとは?

――非常に一体感のある現場だったかと思いますが、台湾パートと日本パートでスタッフの面々は多少異なりますよね。流動的なチームの中で、一体感が損なわれなかった理由はどこにあると思いますか。

清原:私はクランクインとアップが日本で、残り3週間ほどは全て台湾というスケジュールでしたが、まず日本においてはよく知っている藤井組のスタッフのみなさんがいらっしゃったので、安定感がありました。そして台湾パートは、もちろん各々に映画愛やこの作品への思いは強くあったかと思いますが、やはり「藤井監督が何をしようとしているのか」にスタッフやキャストのみなさんが興味を抱いていたからこそ、熱が循環していたのではないかと感じます。

グァンハン:台湾と日本の撮影の大きな違いといえば言葉かと思いますが、現場には素晴らしい通訳の方々がいらっしゃったので全く問題になりませんでした。どちらかというと、僕が日本語を用いて演技することのほうが自分的には問題で、現場でのコミュニケーション自体はとにかくスムーズでした。これは映画撮影だけでなく、普段もそうかと思います。日常生活のなかで言葉が通じなくても、「この人はすごく頑張っているな」という熱は伝わってくるもので、「この人はこういうことをしてほしいと思っているんだろうな」と、見ていると自然と分かるものだと思います。

――なるほど。それ以外に違いがあるとしたら、グァンハンさんがおっしゃっていたような台湾と日本の食文化の違いがそれぞれの現場にも出ていた、といった点でしょうか。

グァンハン:僕はそれがとても面白かったです。この差異はそのまま台湾と日本の文化の差であり、文化交流をしている感覚でした。

清原:台湾の撮影現場は、朝ごはんから8種類くらい並んでいて、ドリンクの種類も豊富でした。お茶、紅茶、タピオカなどなど…。これがなんと昼も夜もそうなんです。そして私が本当に感動したのが、どのご飯も温かいことです。どうやってこんな絶妙なタイミングで用意してくださっているんだろう?と驚くくらいホカホカの状態でフォーなどを食べることができて、天国のようでした。温かくておいしいご飯がモチベーションに繋がることをしっかりと理解してくださっているからこそ、それがかなったのだと思います。

しかも、それとは別に台湾のスタッフさんが人気のグルメを差し入れしてくださるんです。私はとにかくタピオカドリンクが好きで、両手に抱えて撮影をしていたのですが(笑)、それを見たグァンハンさんがタピオカを差し入れてくださいました。どのご飯もとってもおいしかったです。

グァンハン:よく食べること、よく寝ること。そうすると、よく働くことになりますから。

清原:本当にそう思います!

――本作での経験を経て、今後の俳優としてのビジョンに変化はありましたか?

グァンハン:そうですね。どの作品に出演しても必ず得るもの、学びはあると思いますし、今回はさまざまなチャレンジをさせていただきました。ただ、役者の人生は旅そのものだと思っています。これからどういった脚本、監督、共演者に出会えるかわからないので、それが楽しみでもあります。

清原:私も全く同じです。

グァンハン:(日本語で)コピペ(笑)!

清原:今回の来日で、グァンハンさんが「コピペ」という日本語を覚えました(笑)。

私も、日台合作の本作では初めての経験をたくさんさせていただきました。この作品をきっかけに「挑戦してみよう、なんとかなるかも」の気持ちが今まで以上に増えたような気がしています。この勇気をちゃんと覚えておいて、次に生かしたいです。

(取材・文:SYO 写真:上野留加)

 映画『青春18×2 君へと続く道』は、5月3日より全国公開。