日本中を車中泊しながら旅するカップルYouTuber、サニージャーニー。こうへいとみずきカップルのスタートは順調だったものの、旅の序盤に、みずきが体調を不良を訴える。病名は「すい腺房細胞がん」。そして宣告されたのは「ステージ4」「余命4カ月から2年」……。
そんなサニージャーニーのふたりが書き上げた本『日本一周中に彼女が余命宣告されました。』(双葉社)には、窮地に立たされたふたりがぶつかった壁と、今を生きるためにふたりがどう立ち向かったかが克明に描かれている。
一夜にして「バズる」ということの高揚、一方で憶測から生まれるバッシング……。いわずもがな体調が悪いみずきと、みずきを看病しながらYouTubeで生計を立てなければならなかったこうへいにとって、どのような日々だったのだろうか。
余命宣告をされたみずきのために、クラウドファンディングを経てクリエイター支援の仕組みである「OFUSE」を利用しはじめたふたりに届く荒らしコメント。大物配信者に取り上げられ、さらに炎上は加速する。
大物配信者からの連絡と大炎上
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2月23日、朝目覚めると、とんでもない数の荒らしコメントが届いていた。
「早く証明しろ」
「どうするのか楽しみ」
「絶対に詐欺」
「いよいよ嘘がバレますね」
などなど、今までとは桁が違う量の、荒らしコメントだった。
一体何があったのだろうとコメントなどを読んでみると、とある有名YouTuber のライブ配信でみずきが詐病なのではないか? と取り上げられたらしい。調べてみると、200万人近いチャンネル登録者数がいる暴露系YouTuber らしい。
200万人という数字を見て事の重大さがわかってくる。
そのライブ配信は、有名人の秘密を持った視聴者が電話等で参加、生配信で暴露していくというスタイルだ。
僕たちの場合、熱心なアンチがひとり、「がんだと嘘をついてお金を集めているYouTuberがいる」と根拠のない告発をしたらしく、そこから僕らのインスタにそのYouTuberが「今通話できますか?」とDMを送り、返答がないのでアンサーの動画を待つ、という流れになった。
その配信を見た視聴者が、僕らのチャンネルに大量に流れてきて荒らしコメントをつけているというのが現状のようだ。
確かにインスタのDMに23時33分に、「初めまして! 今通話可能でしょうか?」と先方のアカウントからDMが来ていた。僕の認識からすれば、面識もない相手に、夜遅くに名乗りもせず「今通話できますか?」は結構、非常識だ。
沈黙は詐病だと認めたことになる
だが、YouTube 界では文春砲にならって「◯◯砲」と呼ばれるほど影響力があるようで、この連絡の仕方にも、視聴者は違和感を持っていないようだ。
今までのアンチは無視していても影響力はさしてなかったが、今回の事態は対処しないわけにはいかないようだ。YouTube のあれこれに詳しい友人に連絡して聞いてみたが、やはりその人物の影響力は大きく、沈黙=詐病だと認めた、となってしまうだろうと言われた。
なぜ放っておいてくれないのだろう、と思った。
僕たちが何をしたのというのだ?
そうは言っても、こうなった以上何もしないわけにはいかない。
問題はどうがんを証明するか? だ。
以前も書いた通り、公の場に向けて自分のがんを証明するのは非常に難しい。
診断書の個人情報が明かせない以上、利害関係のない第三者に診断書を見せて確認してもらうほかないが、テレビという巨大メディアで診断書を見せてもダメならどうすればいいのだ?
今回の騒動はこの人に診断書を見せれば収まるのかもしれないが、どうやって僕たちがこの人を信用できるというのだろう? よく知りもしない、絶大な影響力を持つ暴露系YouTuberに、個人情報をさらすわけにはいかない。
だから自分たちでアンサー動画を出すことにした。動画の内容は要約すると以下の通りだ。
・フジテレビが仕込んだやらせYouTuberだといった陰謀論者は相手にしていない。
・個人情報や、みずきの通院する病院は安全のため明かせない。
・みずきがウィッグを取り脱毛の状態を見せる。
・皮下に埋め込んでいるCVポートを見せる。
・フォルフィリノックスの抜針動画を見せる。
・個人情報を隠した診断書を提示する。
また以下の内容を含めた。
・100歩譲って個人情報を隠さずに診断書を見せたとして、それが本物だとどう証明するのか知りたい。病院に問い合わせても個人情報保護の観点から答えてくれるわけがないので、精巧な偽物であれば証明のしようがない。
・フジテレビ・ABEMA・テレビ大阪・HBC北海道放送に出演時に、すでにがんであることは証明している。特にフジテレビに関してはディレクターさんの厚意で番組内で「『めざまし8』は精密検査を受けたときの資料を見せてもらい状態を確認」というテロップを出してくれている。ネットを探せばその動画は見つかるのでそれが証明になる。
・上記で納得できないならみずきの診察についてきてもらうことはできる。もちろん撮影も録音もできないが、そちらが自分の個人情報を提示してくれるのであれば可能。
以上の内容を説明し、最後にみずきに想いを話してもらった。
罪もない相手になぜこんな風に糾弾できるのだろう?
今までがん患者とは思えないほど明るく、前向きに過ごしてきたみずきだったが、今回はさすがに怒っていた。
「なんで自分ががんだってのを、こんなに必死に証明しないといけないの?」
滅多に人に怒りを向けないみずきが、目に涙をためて怒っていた。
胸元のCVポートを見せることも、ウィッグを外して脱毛している姿を見せるのを決めたのもみずきだ。脱毛を隠すためにウィッグを被っているのに、なぜそれを何十万人、何百万人にわざわざ見せなければならないのか?
この事態を引き起こした人は、これで満足だろうか?
一体どこに正義があり、罪もない相手をこんな風に糾弾できるのだろう。みぞおちが熱くなり、吐き気がする。骨を焼くような怒りをどこにもぶつける術もなく、積み重なった名前のない人々の悪意は、少しずつ、少しずつ僕の心を壊していく。
この動画の公開後、「動画内で言っていたように対応したいので、電話で相談できないでしょうか?」と先方から連絡が入った。別に来てもらっても構わないのだが、正直、めんどくさかった。だが言った以上、断るわけにもいかない。電話で相談した結果、先にこちらに個人情報(免許証と住民票、そこに住んでいることが確認できる直近の郵便物)を送ってもらい、その上でみずきの診断書を見せることになった。
情報の価値という意味で言えば登録者約20万人の僕たちの住所と、約200万人の超有名配信者の住所では雲泥の差がある。そこまでするなら信用しようという話になり、診断書、ほかいろいろな書類を見せることにした。
後日、先方の配信で、僕らの話が本当であったと証明してくれていた。だけど、気持ちはこれっぽっちも晴れなかった。
そして、これだけやってもアンチは減らない。むしろ今までは無視できる規模のものだったが、今回の配信をきっかけに、あれこれ個人情報を特定しようという輩が這い出てきた。動画を編集しているとき、企画を考えているとき、ご飯を作っているとき、風呂に入っているとき、名前も顔も見えない人々の声が聞こえるようになる。
論理はメチャクチャの全く筋の通っていない意見ばかりだが、反論する場所がない。いちいち反応していては発信内容が暗いものばかりになってしまうし、ファンはそんなものを望んでいないだろう。
動画を編集していても「この発言はまた叩かれるかもしれない」といった部分ばかりを気にしてしまいみぞおちが熱くなる。
夜眠れなくなり、
「こんな風な動画を出したら、ぐうの音も出ないだろう」
「こんな風にブログで、アンチの人間性の低さを書き殴ってやろうか」
「アンチを装ってコミュニティに入り込み、何人か特定して晒してやろう」
そんな風に実行するはずもない過激なアンチ対策を考えているうちに、気づくと空が白んできている。
みずきのがん発覚以降、ギリギリのところで気持ちを保ってきた。
強風にさらされる砂の城のように、ゆっくりと心が崩れていくのを、明け方の冷たい空気の中、他人事のように感じていた。
そして僕たちは、動画投稿をしばらく休むことにした。
日本一周中に彼女が余命宣告されました。〜すい臓がんステージ4 カップルYouTuber 愛の闘病記〜
定価 1,650円(税込)
双葉社
文=サニージャーニーこうへい、みずき