朝鮮半島は元々、春に雨の少ない気候だ。そのせいで、山火事も多い。2022年3月には韓国・江原道(カンウォンド)の三陟(サムチョク)、蔚珍(ウルチン)で大規模な山火事が起こり、ほぼ大阪市の面積に匹敵する2万923ヘクタールの山林が焼失した。火は原発までわずか3キロのところまで迫った。

北朝鮮での山火事は詳細不明だが、政府は山火事防止のための警告を出すくらいなので、かなり深刻なのだろう。詳細を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、政府が「山火事を徹底して防ぐことについて」という指示を下したと伝えた。指示は11日に、情報筋が務める工場の集会で伝えられた。

江戸時代の日本では、町人や寺社が火を出した場合、最高で30日の押込(自宅軟禁)の処罰を受けたが、21世紀の北朝鮮で火を出したら、管理所(政治犯収容所)送りになるということだ。

その場では、金正恩総書記が提唱した山林緑化計画に歩調を合わせて、山火事の危険性と山林保護の重要性を知ることが必要だとの内容が伝えられた。また、薪の切り出しや耕作のために山に入る際に、燃えやすいものを持っていかないよう教養事業(キャンペーン)を強化すること、燃えやすいものを持って入山する者がいないよう徹底的に取り締まることなども伝えられた。

北朝鮮は2015年から「山林復旧戦闘」を続けている。これは、故金日成主席が提唱した全国段々畑化計画や、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころに、人々が山に入って畑を開墾したことによる山の荒廃を食い止め、洪水や流出土による海の汚染を防ぐことに目的がある。

客観的に見て、金正恩氏の業績の中でも肯定的に評価することのできる、数少ないもののひとつだ。2018年から今年までの第2期戦闘期間には、よりよい種子や苗の確保、植林や定着率の向上、管理システムの改善などの目標が掲げられている。

しかし、せっかく植えた木の苗も山火事によって灰になってしまう。富寧(プリョン)郡では今月に入ってから山火事が4件も発生したが、幸いにして小規模なもので済んだ。それでも、雨が少なく風が強いなどの条件が揃えば、あっという間に燃え広がってしまう。

過去には朝鮮労働党機関紙・労働新聞が、山林管理の責任者である現地の幹部を批判することさえあったが、どうやらそれだけでは済まされない雰囲気だ。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、現地でも同様の指示が下された。山の入口ではライター、マッチ、タバコなどの持ち込みに対する取り締まりが強化され、山林監督員が入山者の持物検査をするほどの厳しさだ。

当局は山林復旧を「銃声も砲声もしない戦争」を位置づけており、無断で山に入って山火事でも起こそうものなら反動分子扱いされるような空気が流れていると情報筋は伝えた。