親会社と子会社の骨肉の争い

 BTSを生んだ韓国の最大手芸能事務所HYBE(ハイブ)に激震が走っている。HYBEの子会社でNewJeans(ニュージーンズ)を擁するレーベル「ADOR(アドア)」が独立して経営権の奪取を計画していたと韓国メディアが一斉に報道。親会社と子会社の骨肉の争いが表面化したのだ。投資家の懸念がふくらんでHYBEの株価は暴落し約1000億円が吹っ飛んだというから深刻だ。新聞各紙は一面で報じファンの間からは「NewJeans解散か」「6月末の東京ドーム公演は中止?」と不安の声が続出している。

 スポーツ紙デスクがこう説明する。

「ADORのミン・ヒジン代表がHYBEから独立しようとしている疑惑をHYBE側が察知して監査権を発動し、ADORの役員に株主総会の招集とミン代表の辞任を要求しました。これに対し、ミン代表は声明文を発表して事実無根を主張。自身がプロデュースした5人組ガールズグループNewJeansをHYBEが“コピー”して、別グループをデビューさせたことが原因と断言しました。すると今度はHYBEのパク・ジウォンCEOが『彼らが主張している内容はほとんど事実ではない』と反論するなど泥沼化の一途です」

 ミン・ヒジン代表はSMエンタテインメント出身で少女時代、SHINee、f(x)、EXOらのアートディレクターとして豊かな感受性と才能を発揮。HYBEに移籍してからはNewJeansのデビューを手掛けて世界的な大成功を収めるなど、業界では“天才プロデューサー”の呼び名が高い。それだけにプライドの高いことでも知られており、NewJeansのデビューにあたってはHYBEと衝突することもあったという。

 K-POPに詳しい音楽ライターがこう指摘する。

「従来のK-POPのガールズグループは強い女性に憧れるガールクラッシュのイメージを前面に押し出していましたが、NewJeansは清純で柔和で明るい少女のイメージ。20年前に戻ってしまったかのようなコンセプトだったため、社内ではデビューに異論を唱える声もありました。しかし、これを押し切り結果的に莫大な利益を生み出すアイドルグループに大化けさせました。それだけにHYBE傘下レーベルBELIFT LAB所属の5人組新人ガールズグループILLIT(アイリット)が、NewJeansによく似たコンセプトでデビューしたことが許せなかったのでしょう」

NewJeansとILLITの違い

 確かにK-POPに詳しくない人が見たらNewJeansとILLITは見分けがつかないほどビジュアルが似ている。しかも、3月25日に発売されたILLITのデビューミニアルバム収録曲「My World」の一部振り付けが、NewJeansのヒット曲「Attention」にそっくりとささやかれている。これではパクリと指摘されても仕方がないのだが……。

「最近のK-POPはイージーリスニング調が流行しているので特にガールズグループはどれも似てしまうのですが、それでも細かい違いはあります。NewJeansがY2K(2000年)の清純派コンセプトなら、ILLITは2010年ごろのふわふわ感があります。音楽的にはNewJeansがハウスミュージックのサブジャンルであるUKガラージやボルチモアブレイクスの要素を導入したのに対し、ILLITはPluggnb(プラグエンビー)とHouse(ハウス)を融合させたHybrid Dance(ハイブリッドダンス)ジャンルの曲調を取り入れるなど新味を出しています。そもそも、ILLITは当初日本人2人を含む6人でデビュー予定でしたが、デビュー前に韓国人メンバーが1人脱退したためNewJeansと同じ5人組となったわけです。デビュー曲『Magnetic』は米ビルボードHOT100にランクインする大ヒットとなっています」(前出の音楽ライター)

 ミン代表が提起したパクリ疑惑については、K-POP解説系ユーチューバーもそろって首をひねっている。今後、社内紛争はどのような経緯をたどりそうなのか。現地の報道によると、独立を計画したミン代表はADORの経営陣1人と手を組んで、HYBEに対してADORの株式持分80%をプライベート・エクイティ・ファンドに売却するようHYBEに圧力をかけたり、独立法人を設立してNewJeansとともにHYBEから離脱する案を準備していた、とHYBE側は見ている。

 一方、新たな情報として「ミン代表は『HYBEに対しパクリ疑惑に対する問題提起をしたのにHYBE側から回答がない』と主張していたが、HYBE側は22日午前10時までにA4サイズで6枚にわたる長文の返答をADORに送信し、ミン代表による受信まで確認している」(現地紙)と報じられた。もし、事実ならミン代表のウソが露呈したことになる。ADORの株式持ち分はHYBEが80%、ミン代表が18%のため株主総会が招集されたらミン代表は絶体絶命のピンチを迎える。

メンバーの表情は暗く

 ただ、NewJeansの売上高は昨年、1000億ウォン(約112億円)を突破しており2027年頃には4人組ガールズグループBLACKPINKの売上を超えるとの予想もある。このためかHYBEのパク・ジウォンCEOが、23日に送った社内公示メールでは「ミン代表の会社奪取計画はILLITのデビュー前にすでに行われていた」とミン代表の罪を強調した上で、ADORの職員に「不安な気持ちを持たずにNewJeansの(5月の)カムバックと成長のために最善を尽くし、 アーティストが今回のことで動揺しないように格別に努めてほしい」と呼びかけている。NewJeansを手放したくないという本音がアリアリだ。

 さらに気になるのは以下のくだり。「NewJeansとILLITの成長と発展のためにどんなことを実行しなければならないのか持続して悩んで改善する」とミン代表との関係改善に含みをもたせているのだ。社内紛争に詳しい現地弁護士はこう指摘する。

「臨時株主総会でHYBEはミン代表の解任案を出す可能性がかなり高く、新たな代表は株主総会で選任されることになります。ただ、ミン代表がHYBEの企業秘密を盗み第三者に提供したという秘密侵害行為は、証拠や事実関係をさらに見ていかないと立証が難しい。さらには、ミン代表が解任された後、NewJeansのメンバーやスタッフが後任の新代表に黙って従うかは疑問ですし、これ以上の株価の下落も防ぎたい。ミン代表としてもHYBEからの資金や世界の音楽業界に対する影響力なしで新会社を軌道に乗せられるか未知数です。関係する人々の言い分を精査し内部調査が進んだ時点で、両社が“大人たちの事情”で劇的な妥協や和解を見せる可能性は捨てきれません」

 HYBEとADORの対立が激化するなか、NewJeansのリーダー・ミンジが23日、ソウル市内で行われた高級ブランド「CHANEL」のイベントに出席し報道陣に向けてポーズをとったが、表情は終始暗かったという。若いメンバーに罪はない。紛争を早く収束させるのが大人の務めだろう。

デイリー新潮編集部