5月22日、都内で中山秀征氏(56歳)と鈴木おさむ氏(52歳)とのトークイベントが開かれた。同日に発売された書籍『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』(新潮社)の出版を記念したもので、会場には多数のメディア関係者が集まった。中山氏が持ち前のトークスキルで会場を沸かせた数々のエピソードとは――。

「ハーフポテトな俺たち」に出ていたのを見て、役者だと思っていたら

 揃ってイベントに登壇した2人だが、実はこれまで仕事で深い関わりはなかったという、中山氏と鈴木氏。きっかけは先日、ふとしたきっかけで実現した食事会だそう。

 鈴木氏は昨年10月、今年3月をもって放送作家業、文筆業を“卒業”すると表明したことでも話題となった。食事会での話題も、長年テレビ業界で活躍してきた2人とあって、ついつい“業界話”に。

「ずっと聞きたかったこともある、つい前のめりになってしまいました(笑)。3月に発売された鈴木さんの『最後のテレビ論』の話も含め、テレビの話で盛り上がり、今回のイベントでもお話し相手をして頂くことに」(中山氏)

 一方の鈴木氏は、中山氏についてこんな印象を抱いていたという。

「10代の頃、『ハーフポテトな俺たち』という恋愛ドラマが好きで、出演者の香坂みゆきさんに恋をしていたのですが、そのドラマに出演していたのが“ヒデちゃん”でした。それで役者さんなのだと思っていたら、今度は小堺一樹の『いただきます』でコントをしていて、役者なのか、芸人なのか、この人はなんなんだ、と。その後も司会から“かくし芸”から、ヒデちゃんの枠に収まらない活躍をリアルタイムで見てきた世代でした」(鈴木氏)

 マルチに活躍してきた中山氏の来歴から、話題は“ハケ水車”などで伝説となったお笑い番組「殿様のフェロモン」(フジテレビ)でのエピソードで盛り上がる。

今田耕司との和解

「殿様のフェロモン」は1993年に放送が始まった“めちゃイケ”の前身とも評される「お色気バラエティ番組」で、MCを既に売れっ子だった中山氏と、初のピンでの起用となった今田耕司氏が担当した。

 実は、この2人は長年にわたり“不仲”が語られていたが、そのきっかけがこの番組だった。

「一言で言えば、スタイルの違いからくる行き違いだったんだと思います。僕が心掛けていたのは、なるべく出演者の全員に見せ場を作ること。そのために、いかに相手の話を“受け”るかを念頭に置いていました。一方の今田さんは“ダウンタウン一派”として笑いを追求する言わば“攻め”のスタイルだった」(中山氏)

 書籍の中でも披露されているエピソードとして、酒席での出来事がある。番組が始まって間もない頃の打ち上げでのこと、中山氏が仲良くなろうと今田氏の酒を注ごうとすると、「結構です」と断られたのだそう。

「その時はたまたま必要なかったのかな、と時間を置いて再びお酒をすすめたのですが、やっぱり“結構です”とグラスに口すらつけない。酒が飲めないのではなく、“俺の酒が飲めない”という意味なのだと理解しました(笑)」(中山氏)

 その後も、局ですれ違えば挨拶はするものの、なんとなく微妙な関係性が続いた2人。和解に至ったのは番組の終了から15年近くが経ったある日のことだった。事務所の後輩であるザブングルの松尾陽介さんを介して、今田氏から飲みの誘いを受けたのだ。

 その席で、こう言われたのだという。

「あの時、ヒデちゃんは、みんなに振って、誰かがスベっても拾って……。正直、俺は、『なんで拾わなアカンねん』と思っていた。でも、俺は今、テレビで“それ”をやっている……」

 そう素直に口にできる真摯な姿勢に、中山氏は頭の上がらない思いだったという。

「バカでいろよ」という志村けんの言葉

 中山氏がなるべく、出演者の見せ場を作るよう努力するのには、自分が若手の頃に、同じように先輩たちに助けてもらった恩が忘れられないからだという。

「とろサーモンの久保田さんが、“ヒデちゃんに憧れている”と話している、とネットニュースで読みました」(鈴木氏)

「有り難いことに、千鳥の2人からも言われたことがある」(中山氏)

 という話題から、テーマは「影響を受けた先輩」に。

「やっぱり志村さんの存在は大きかった。皆さんあまりイメージを持っていないかも知れませんが、20代の若い頃から最後まで本当によくして頂いた。志村さんから事あるごとに言われてきた“バカでいろよ”という言葉は、僕の座右の銘になっています」(中山氏)

 志村さんは中山氏に、

「俺たちなんて、もともと何もなかったわけだから、利口ぶるなよ」

「『バカだなぁ』ってのは俺たちにとって最高の誉め言葉なんだよ」

 そう言って、繰り返し「バカでいる」ことの大切さを説いてくれたのだという。

 書籍の中では、「バカでいる」ことを追求しながらも、博識で勉強熱心だった志村さんの素顔も語られている。

「本を読んで伝わってくるのは、諦めずに努力し続けることの大切さです。私も、天才ではない自分をひたすら努力でカバーしてきたという自負がある。そうした物事への向き合い方や、ぶれない姿勢についても、非常に共感できる部分が多かったです」(鈴木氏)

『いばらない生き方』の中では「DAISUKI!」(日本テレビ)をはじめ、数々のテレビ番組で学んできた教訓や、萩本欽一氏や上岡龍太郎氏など大先輩から学んだことや、沢尻エリカ氏を巡る“失敗談”まで。数々のエピソードをもとに、その美学や仕事術が綴られている。

デイリー新潮編集部