「風呂場で“飲め”と飲酒を強要」

 将来、日本相撲協会を背負って立つことが期待されている元横綱稀勢の里こと二所ノ関親方(37)。しかし、親方本人は62年ぶりの「勧進大相撲」を欠席しゴルフにかまけ、弟子の悪質なアルハラ疑惑は隠蔽(いんぺい)する始末。率いる部屋の統制が全く取れていないという。【前後編の後編】

 ***

 前編では、親方が能登半島地震の被災地への寄付を目的とした「勧進大相撲」を欠席し、ゴルフを楽しんでいた件を報じたが、親方の問題はこれだけにとどまらない。

 なんと、看板力士が未成年の若い衆に飲酒を強要するなどの悪質ないじめを行い、親方が隠蔽に走るという事態までもが生じてしまったというのだ。さる二所ノ関部屋の後援会関係者によれば、

「昨年3月に初土俵を踏んだ番付外の総勢山(そうせいざん・19)という若い衆がいるのですが、ある時期から一部の弟子たちが彼をいじめ出したのです。そうしたところ、あの大の里が調子に乗り、先頭に立っていじめをエスカレートさせていったと聞いています」

 特にひどいのは総勢山が風呂に入っている時で、

「大の里が後から酒を携えやって来て、風呂場で“飲め”と強要するらしいのです。断り切れない総勢山が大量の酒を飲まされ、酔い潰れてしまうと、大の里はその様子を面白がって笑うのだとか」(同)

期待の大器だが…

 昨年5月に初土俵を踏んだばかりの大の里は、早くも幕内の西前頭五枚目。所属する二所ノ関部屋だけでなく、角界全体の期待を背負う大器である。

「日体大相撲部で2年連続アマチュア横綱に輝いた大の里は、史上最強の学生横綱という触れ込みで卒業後、二所ノ関部屋に入門しました。飛び級の幕下十枚目格付け出しでデビューし、今年1月の初場所で所要4場所というスピード入幕を果たしています。その後、3月の春場所でいきなり尊富士(25)と優勝争いを繰り広げ、続く5月の夏場所では三役昇進が決定的だといわれているのです」(大相撲担当記者)

 ここでつぶさに経歴を見比べてみると、わずかな差とはいえ、総勢山のほうが大の里よりも入門が早いことが分かる。つまり、角界のルール上は総勢山が兄弟子となるわけだが、

「イケイケの大の里からすれば、自分のほうが番付も年齢も上だという意識が強いのでしょう。兄弟子の総勢山を敬う様子は全くなく、たびたび風呂場などでの飲酒強要が繰り返されていたようです」(前出の後援会関係者)

部屋の人間関係がグチャグチャに

 当然、部屋で暮らす者たちは大の里のいじめを把握しており、二所ノ関親方も遅まきながらどこかで事態に気が付いたというのだが、これまで問題は放置されてきた。

 なぜ、二所ノ関部屋はかように統制が取れなくなっているのか。原因の一つとして、マネージャーを務める前田一輝(かずき・36)なる人物の存在があるという。

 さる二所ノ関部屋の関係者はこう述べる。

「前田は一風変わった経歴の持ち主です。まずは高校中退後、高田川部屋に入門して12年間、相撲を取っていました。16年に幕下で引退してからは、不動産会社などで働きながらファイナンシャルプランナーの資格を取得したそうです」

 再び角界へと戻ってきたのは、二所ノ関親方との関係がきっかけだった。

「元々、前田は親方と知り合いだったようですが、いつの間にやら距離を縮め、気が付いたら部屋のマネージャーを任されていました。22年には、その年の6月に新設された部屋の所在地である茨城県稲敷郡阿見町とアドバイザリー契約を結んでもいます。これは、彼が部屋と阿見町を結ぶパイプ役を担うという、世にも珍しい契約内容になっていた」(同)

 今年に入ると前田氏は阿見町議選に立候補し、3月24日に初当選を果たした。現在は“阿見町を相撲のまちへ!”というスローガンを掲げ、町議として活動しながら部屋のマネージャーを続けているそうだ。

「抜け目のなさの塊である彼は、弟子たちのあらゆる行いを二所ノ関親方に告げ口する役割を務めています。その一方で、女将(おかみ)についての親方の愚痴を聞いてあげることもある。親方からすれば頼りになる存在でしょうが、あまりにも前田が自身の好き嫌いをもとに話をするので、部屋の人間関係がグチャグチャになってしまいました」(同)

真偽不明のうわさを披露

 彼が常日頃から敵視しているのは、女将と部屋付きの元関脇嘉風こと中村親方(42)だという。

「前田にとっては二所ノ関親方との良好な関係こそが“メシのタネ”です。だから、彼は親方から見た自身の評価を相対的に高め、片や女将と中村親方を下げるべく、この二人の悪口を言い回っています」(同)

 具体的な例を挙げれば、

「女将については、真偽不明の野卑なうわさを弟子たちに披露し、歓心を買うのです。将来の独立がうわさされている中村親方についても“あんな奴に付いていったらだめになる”と、根拠のない話をしています。中村親方の弟子を一人でも二所ノ関部屋に引き留めて、自身の手柄にしたいのです」(同)

 最大の問題は、二所ノ関親方が前田氏を信用し過ぎていることだとか。

「親方は前田がさまざまな情報を報告してくるので、それだけで安心して、部屋がきちんと管理できていると勘違いしてしまったのではないでしょうか」(同)

「稽古は週に3日で、相撲部屋の体を成していない」

 新設されたばかりの二所ノ関部屋は1800坪にも及ぶ広大な敷地を誇り、その中には親方の自宅と弟子たちが暮らす部屋とが別々に建てられている。

「二所ノ関親方と弟子たちは“同じ敷地内”で暮らしていますが“同じ屋根の下”で生活をしているわけではありません。実際のところ親方は、週に3日しかない稽古と日々の昼食の時間以外、ほぼ弟子と接していないのです。その上、女将も部屋に顔を出す機会が少なく、22年の結婚当初から指摘されていたように“謎の存在”のまま。二所ノ関部屋は相撲部屋の体を成していないと思います」(同)

 二所ノ関親方は20年から21年にかけて早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程で学んだ。

 その成果を実践するべく例えば、1週間の中で稽古を3日、筋力トレーニングを2日行い、休みを2日取るなど、合理的かつ先進的な部屋の運営を試みてきたとされる。しかし、今の惨状を聞くかぎりそれは“机上の空論”だといえるのではなかろうか。

 では、こうした不祥事や疑惑について二所ノ関親方は何と答えるか。4月19日、携帯電話を鳴らし、大の里による飲酒強要について話を聞こうとしたが、「答えられない」とガチャ切り。以降は記者の電話に出なくなってしまった。

「お仲間である二所ノ関親方へのえこひいきにへきえき」

 一方の協会にも同19日、書面で質問を送った。すると、回答期限を1時間半ほど過ぎた同22日の18時半ごろ、大慌てで〈報道関係各位〉といった宛名を冠して、本誌(「週刊新潮」)を含む各メディアにおよそ以下の内容の書面を送り付けてきたのだ。

「大の里と未成年の幕下以下力士が昨年9月、二所ノ関部屋内で共に飲酒をしていました。師匠が報告を受けた際、二人に対して厳しく指導していましたが、このたび協会に報告がありました。大の里と師匠である二所ノ関に対し、コンプライアンス部長から厳重注意を行っております」

 さすがの協会も全くのうそはつけず、大の里と総勢山が飲酒をしていた事実は認めたが、いじめや強要についてはスルー。二人が各々の意思で酒を飲んだかのような文面で、二所ノ関部屋における不祥事の真相について隠蔽を手助けしたのだ。

 また、二所ノ関親方が「勧進大相撲」の欠席を届け出た際の理由については回答がなく、完全に隠蔽を図ろうとしているのだった。

「今回、協会にとって“お仲間”である二所ノ関親方へのえこひいきぶりに、改めてへきえきしました。今年、協会にとって“宿敵”の元横綱白鵬こと宮城野親方(39)が受けた厳罰という仕打ちと比較すると、天と地ほどの差があるからです。宮城野親方は弟子の暴力行為を止められず、監督責任や報告義務を怠ったとして2階級降格の重い処分を受け、現在、率いる宮城野部屋は当面閉鎖となっています」(前出の大相撲担当記者)

 さて、協会に守られ大甘裁定を受けた二所ノ関親方はこの先、どのように出世を果たしていくのか――。人気の裏で実態は残念な親方ぶりが際立つ“次世代の理事長”。大相撲の未来をこの人物に託してよいのだろうか。

 前編では、親方の「勧進大相撲」欠席の裏側について詳報している。

「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載