都内在住の男性(51)は2年ほど紅麹コレステヘルプを愛飲していた。ロットナンバーも確認したところ、該当していた(男性提供)

 小林製薬製造の紅麹を含むサプリメントにより健康被害が広がっている。同社の紅麹の供給先は170社以上あるとされる。対応が注目されるなか、愛飲していた男性と、医師ら専門家に話を聞いた。

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■2年前から愛飲、「飲んでるヤツじゃん!」

「未知の物質」とはプベルル酸か――。

 小林製薬(大阪市)が製造したサプリメント「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人に健康被害が出ている問題で、3月29日、厚生労働省は健康被害の製品ロットに「プベルル酸」という物質が含まれていたことを明らかにした。小林製薬はこれまで「想定していない未知の成分が混入した可能性がある」などと説明していた。

 2年ほど前から、紅麹コレステヘルプを毎朝3粒飲んでいた会社員の男性(51)は、動揺を隠さない。

「報道を見て、自分が飲んでるヤツじゃん!とショックでした。機能性表示食品で国のお墨付きがあるし、小林製薬にも安心感があったのに」

 愛飲のきっかけは、人間ドックでコレステロール値の高さを医師から指摘されたこと。妻が薬局で見つけてきてくれた。摂取するようになって、「コレステロール値はそれ以上悪化することはなかったし、なんとなく『効いてるかな』と思っていた程度」。

 健康被害の報道を受けて、「そういえば」と不安が増すばかりだという。

■早朝の尿意と膀胱の痛み、倦怠感

「早朝尿意で起きるのもサプリを飲み始めてからかも、とか、時々の膀胱の痛みもそうなのかも、とか。慢性的な倦怠感や、寝てもとれない疲れは、仕事や加齢のせいと思っていて、これまでサプリとの関係を疑ったことはなかった。でも、早朝の尿意も膀胱の痛みも倦怠感も、サプリのせいではと思えて、不安です」

 厚生労働省によると、「プベルル酸」は青カビからつくられる天然の化合物で、抗生物質としての特性があり、抗マラリア効果があるほど毒性は非常に高い。混入した経緯は不明。また、厚労省は現時点でプベルル酸が腎臓に影響を与えるかどうかについてわからないとしている。

コレステロール値が高かったことから、愛飲を始めた紅麹コレステヘルプ(男性提供)

■透析に死亡例、「かなりひどい健康被害」

 29日の会見で当初、小林製薬は「未知の成分」について「構造までは見えてきた」としつつ、特定の成分には至ってないと述べていた。しかし途中、厚労省の発表で、会社側が28日時点で「未知の成分」をプベルル酸の可能性が高いと報告していたことが判明。この点に質問が集中し、「プベルル酸が直接的に腎障害、腎疾患を引き起こしているという仮説もまだ立てていない。毒性のメカニズムすら検証ができていない状態で、混乱させたくなかった」と弁明した。  

 小林製薬の紅麹成分配合サプリ摂取との因果関係が疑われる死亡例は28日午後10時時点で5人、入院者は114人だ。

「死亡例が報告される前、人工透析になったという報道の段階から、かなりひどい健康被害だと注目していた」

こう話すのは、「てらすクリニックひきふね」の船橋健吾院長だ。

■医薬品ほど管理されず

「サプリメントや健康食品は、どれくらいの摂取で数値が下がるというデータがない。食品なので、医薬品ほど管理されておらず、異物が混入する可能性もある。反復、継続的に利用する場合、健康被害が生じるリスクも念頭に置いておくべき」(船橋院長)

 腎臓専門医で、年間700万PVの腎臓に関するメディアを運営する「赤羽もりクリニック」の森維久郎院長は「まだわかっていない部分が多く、サプリメントの良し悪しを議論したいわけでもない」と述べた上で、「長期的に使用するサプリメントがあるときは、健康診断などで体に害となっていないかをチェックしても良いのでは」と指摘する。

■「βカロテン」サプリの事例

 森院長が例として挙げるのが次のケースだ。1970年代、緑黄色野菜を多く食べる人に胃がんや肺がんが少ないことが報告された。緑黄色野菜に含まれるβカロテンにより、がんが予防できるかもしれないという仮説が出て、βカロテンを含むサプリメントが人気になった。だが、近年、複数のランダム化比較試験の結果を統合したメタアナライシスで、βカロテンのサプリメント摂取は、膀胱がんや喫煙者での肺がん・胃がんのリスクと死亡率、飲酒者の脳出血リスクを増加することが報告された――。

「診療で、サプリメントにはデメリットが全くないと考えている人に多く会います。良い方向に動くか、悪い方向に動くかは確率論で、個人差もある。自分が飲んでいるモノは絶対ではないと考え、メリットデメリットを天秤にかけて、リスクヘッジをしてほしい」(森院長)

Amazonなどで定期的に購入していたため、常備している状態だった。男性は小林製薬に問い合わせているという(男性提供)

■気づいた時には重症レベル

 今回の小林製薬の紅麹成分配合サプリでは、急性腎障害など腎障害を含む健康被害が相次いで報告されている。一方、サプリの健康被害では一般的に肝障害も少なくない。腎臓は体内の老廃物や余分な塩分、水分を尿にして排泄する臓器であり、また肝臓は薬やサプリメントなどの代謝が行われる臓器だからだ。

 大阪大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科の竹原徹郎教授が言う。

「腎臓、肝臓とも沈黙の臓器と言われるほど、症状がなかなか現れず、自覚しにくい。そのため、本人や家族が何かおかしいと気づいたときには重症レベルということは珍しくありません。薬やサプリメント、健康食品による肝障害を薬物性肝障害といいますが、急性肝炎重症型や劇症肝炎を起こし、亡くなってしまう方もいるのです。健康を取り戻すまで、月単位で時間がかかることも多い」

■回復に時間がかかる

 日本医師会監修の「いわゆる健康食品・サプリメントによる健康被害症例集」(同文書院)に紹介されている事例では、58歳女性がサプリメントのウコンを肉体疲労回復目的に内服開始。1カ月後、全身倦怠感、発熱、頭痛を訴え受診したところ、血液検査で肝機能障害を指摘された。入院後、肝障害は軽快に向かったが、2週間後再び増悪し、プレドニゾロン(ステロイド)を投与。半年後の肝生検で炎症性変化、繊維性変化の軽快が確認された。

 また、独立行政法人国民生活センターのホームページでは、「通販で購入した特定保健用食品の粉末青汁を1回飲用し、重症の薬物性肝障害。34日間入院」「知人に勧められた3種のサプリメントの摂取を続けたところ、薬物性肝障害の重症。1カ月強の入院」といった事例もアップされている。

「サプリメントとサプリメント、あるいはサプリメントと薬といった飲み合わせで、問題が生じるケースもあります。長く飲んでいて問題がなくても、何か薬を飲む必要が出た際に飲んでいたサプリメントの毒性が出てくることもある」(竹原教授)

男性が常備していた紅麹コレステヘルプ。ロットナンバーを確認したところ、該当していた(男性提供)

■サプリは薬より「安心安全」ではない

 紅麹コレステヘルプはパッケージに「悪玉コレステロールを下げる L/H比を下げる」と書かれている。L/H比とは、LDL(悪玉)コレステロール値とHDL(善玉)コレステロール値の比率のことだ。

「人は薬よりサプリメントの方が『安心安全』と捉える傾向があります。しかし、薬は効果と安全性が厳格な臨床試験で確認されています。医師の管理下で使うので、副作用を疑う症状が出た場合、即ストップをかけることができる。メリットがデメリットを上回ることが明らかだから、薬を使うのだと理解してほしい」(米山医院・米山公啓院長)

 紅麹コレステヘルプを愛飲していた冒頭の会社員男性もしみじみ言う。

「薬ではなくサプリだから、健康の一助にはなっても、悪い影響や副作用はないと思っていました」

 男性は小林製薬に問い合わせてはみたが、電話窓口は営業時間外のアナウンスでつながらず。「4月1日から問い合わせ対応を開始するとのことですが、遅いと感じます。そもそもいつごろ事象を把握していてなぜ今、公表したのか、わからないことだらけ。国内大手だからと信頼していたのに、いまは不安と不信感しかないです」(男性)

 今後、国立医薬品食品衛生研究所が小林製薬からサンプルの提供を受け、プベルル酸以外の物質も含め調査し、原因物質の特定を進めていく方針だという。

(ライター・羽根田真智)