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 電気と都市ガスへの補助金が5月の使用分で終わる。補助がなくなると電気やガス代が増え、家計の負担は重くなる。一方で、ガソリンの補助金は継続する方針だ。経済やエネルギーの専門家は、こうした岸田文雄政権のちぐはぐな物価高対策について「国民のことを考えていない」などと批判する。

 電気・ガス代への補助金は昨年1月にスタートした。当初は家庭向けの電気代は1キロワット時あたり7.0円、工場や中規模マンション以上といった高圧の契約向けは同3.5円を補助する内容だった。都市ガスへの補助は1立方メートルあたり30円だ。

 補助は段階的に減り、昨年9月の使用分からは半額に、今年5月分はさらにその約半分へ。そして6月分からは補助そのものがなくなる。

 加えて、2024年度は電気代に含まれる再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)も値上がりする。再エネ賦課金は太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの普及のため電気代に上乗せされており、送配電会社が再エネで発電した電気を発電会社から買い取る費用に充てられる。従来の1キロワット時あたり1.4円から、3.49円になる。

 その結果、家計の負担は増す。第一生命経済研究所シニアエグゼクティブエコノミストの新家義家さんが3月28日にまとめたレポートによると、標準的な家庭では電気代、ガス代を合わせて年3万2300円程度の負担増となる計算という。物価の値上がりや高どまりは続いており、家計にとっては痛手だ。

電気と都市ガスへの補助金が5月の使用分で終わる。写真はイメージです🄫gettyimages

 政府がこうした方針を示したのは、先行きに光が差し込みつつあるタイミングだ。今年の春闘は大幅な賃上げが実現した。労働組合の中央組織・連合が4月18日に公表した第4回集計結果によれば、定期昇給を含む正社員の賃上げ率は平均5.20%で、1991年以来33年ぶりの高水準だ(月あたりの賃上げ額は加重平均で1万5787円)。

■好循環の流れに…

 賃上げの額は会社やその人の年齢などによって異なるものの、期待が持てる内容だけに、新家さんは前述のレポートで「電気・ガス代の上昇が賃上げ発の好循環の流れに水を差すことが懸念される」などと指摘している。

 ここで不思議なのは、電気・ガス代への補助はやめるのに、ガソリンへの補助金は続ける点だ。

 ガソリンへの補助金は石油元売り会社に補助金を出してガソリンスタンドの仕入れ価格を下げる仕組みだ。22年1月にスタートし、レギュラーガソリンの全国平均価格を「1リットルあたり175円程度」に抑えることを目標としている。

電気やガス代が増えれば家計の負担は重くなる

 補助をやめるとガソリン代は同190〜200円に値上がりするとされるから、車を利用する家計にとってはひと安心だ。しかし車を使わなかったり、使う頻度が少なかったりする家庭にとって恩恵は少なく、理不尽に感じる。

 エネルギー問題に詳しい国際大学の橘川武郎学長は、政府の矛盾にも映る姿勢について「選挙対策を意識したのかもしれません」と話す。

「電力の利用者は、どちらかと言えば『広く、浅く』分布しているのに対し、ガソリンの利用者はそれに比べて偏っています。業界団体のあり方も違う。ガソリン経営者が集まる団体は全国にあって結束力もあり、集票が期待できると考えたのではないでしょうか。そもそも電気・ガスもガソリンも、今回の補助金の制度に合理性はありません。ガソリンの補助金を続けるのは、中東情勢が緊迫化し、原油価格上昇の恐れがあることも理由でしょうが、今は与党に逆風が吹いていますから、引っ込みがつかなくなったことも大きいと思います」

電気・ガス代への補助はやめるのに、ガソリンへの補助金は続ける

■眼中にない

 経済評論家の斎藤満さんは、政府がこうしたちぐはぐな方針を示すのは「経済の論理や国民の生活なんて、最初から眼中にないからだ」と批判する。

「岸田政権が声の大きな団体や大企業寄りの姿勢を取るのは、自分にとって得かどうか、自身のポストを維持する上でプラスかどうかを基準に置いているためです。そのため物価高対策は本来、国民のための対策であるべきはずなのに、企業にばかり目が向いている。ガソリンにかかる揮発油税を一時的に引き下げる『トリガー条項』を凍結解除する手もあるのに、財務省の顔色をうかがって、それもできない。今回の姿勢には誰のために政治をやっているかがはっきりと表れています」

岸田政権は声の大きな団体や大企業寄りの姿勢を取るとの批判も

 そのうえで「本気で物価高対策を考えるなら、金融政策を正常化して円安に歯止めをかけるべきだ」と指摘する。ドル・円相場は18日時点で1ドル=154円台半ばで推移し、約34年ぶりの円安・ドル高の水準が続いている。斎藤さんは言う。

日本銀行は3月にマイナス金利を解除したが……

「日本銀行が3月にマイナス金利を解除したと言っても、政策金利を0.1%程度引き上げただけで、米国との金利差は広がったまま。円安を解消するため為替介入に踏み切ったとしても、効果は一時的なものに限られるでしょう。緩和策によって円安が続いていれば企業に対してはいい顔はできるでしょうが、原油をはじめ輸入品の値上がりを通じて物価を押し上げ、家計を圧迫します。正常化を急ぐべきです」

(AERAdot.編集部・池田正史)