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 新学期のあわただしさが一段落する5〜6月は、たまった疲れで子どもたちも体調を崩しやすい時期。朝、いつもどおりに起きられなかったり、やる気を失ったりしていたら、それは「五月病」のサインかもしれません。五月病が起こる仕組みや、どのような子がかかりやすいのかなどについて、子どものこころに詳しい大阪医科薬科大学病院・小児科の吉田誠司医師に聞きました。

■「まじめで頑張りすぎてしまう子」は要注意

――五月病とはどのような病気ですか?

 4月は入学や進級などで新生活が始まり、生活環境が大きく変化します。新たな環境になじもうと頑張りすぎてうまくリラックスできない状態が続くと、5月の連休すぎあたりからやる気が出ない、疲れやすい、朝起きられないなど、心や体に症状が現れます。こうした不調を「五月病」と呼んでいます。

「五月病」という病気があるわけではなく、この時期に症状が出やすいことから、そう呼ばれるようになりました。

――なぜ5月に不調が現れやすいのでしょうか?

 環境の変化は楽しみであると同時に、「担任の先生とうまくやっていけるかな」「友だちはできるだろうか」などと、さまざまな不安やストレスも引き起こします。ストレスを感じると、体に備わっている自律神経が、そのストレスに負けまいと立ち向かう”戦闘モード”に切り替わります。戦闘モードは「気が張っている状態」。疲れていても感じにくく、充実感もあるので、ついつい頑張りすぎてしまうのです。

 しかし戦闘モードのまま、何カ月も頑張り続けることはできません。だんだん疲労とストレスが蓄積してきて、頑張ろうと思ってももう頑張れない子が増えてきます。それが「5月の連休明けの頃」というわけです。

 とはいえ一律に5月ではなく、4月後半くらいに早めに糸が切れてしまう子もいますし、6月以降に症状が出てくる子もいます。

――どんな子が五月病になりやすいのでしょうか?

 まず、もともと体力がなく疲れやすい子、睡眠が足りていない子は、ストレスの影響を受けやすい。そして「まじめで頑張りすぎてしまう子」ですね。一生懸命取り組む姿勢は大事ですし、体力に見合った頑張りならばいいのですが、体力がついていかなかったり、心身の疲れがたまっていることに気づかないまま頑張り続けたりすると、大きく体調を崩してしまうことにもなりかねません。

 小学校の高学年になるほど五月病が増える傾向も見られます。低学年のうちは早めに寝るので睡眠で疲れを回復できているのですが、高学年になるとスマホやゲーム、勉強などで夜更かしをして、睡眠が足りていない子も多い。さらに高学年では習い事や塾なども増えるので、体にかなり負担がかかっているんですね。

 そして神経発達症があるなど、集団になじむのが苦手な子も、注意が必要です。

■周囲の大人が”サイン”に気づいてあげることが大切

――五月病のサインを教えてください。

「疲れやすい」「食欲が落ちる」「やる気が出ない」が、よく見られる症状です。頭痛や腹痛、動悸、めまいを訴える子もいます。

 よく見られる症状の中でも食欲の低下は親も気づくことができますが、疲れている、やる気が出ないという症状は、子どもは自覚しにくく、親にもわかりづらいものです。すぐ横になりたがるとか、朝起きられない、学校に行きたがらなくなった、といったサインを見逃さないようにしてください。

――「子どもだからこそ」の注意点はありますか?

 子どもが大人と大きく違うのは、「自分では気づけない」ということです。大人なら「最近疲れがたまっているから早めに寝よう」などと対策を講じることができますが、子どもは疲れているといった自覚が乏しく、これ以上続けたら体調を崩すといった判断がなかなかできません。

 また「とにかく頑張らなくちゃ」「学校は行かなければならない」と思い込んでいる子もいます。学校の様子を聞くと、本当はつらいのに「大丈夫」「学校は楽しい」などと答える子も多く、不調が見過ごされてしまうことも少なくありません。

 保護者や先生など周囲の大人が注意深く観察し、気づいてあげることがとても大事なのです。

■まずは休養 欠席が3日続いたら受診を

――五月病のサインに気づいたら、親はどうすればいいでしょうか。

 五月病は6月になったら自然に治るというものではありません。

 疲れがたまって体力が落ちている状態なので、まずはしっかり栄養と睡眠をとって体を休ませましょう。

 生活を見直し、規則正しく寝起きし、3食バランスよく食べるなど、「生活リズムを整えること」も大事です。生活リズムを正常化することが、自律神経のバランスを整えることにもつながります。元気になるまで習い事は休むなど、活動量を減らすことも検討しましょう。

 学校は行けるなら休ませる必要はありませんが、担任の先生に子どもが頑張りすぎてしんどくなっている状況だという情報を伝え、疲れたときは保健室で休ませてもらうなど話し合っておくと安心です。

 保護者など周りの人がその頑張りを認めることも、回復の助けになります。「毎日学校で頑張っているね」など、小さなことでいいからできていることを見つけ、褒めてあげてください。子どもは周りから認められることで「これ以上頑張らなくても大丈夫」と安心でき、戦闘モードから解放されます。

――病院を受診したほうがいいケースはありますか。

 五月病の症状で学校に行けない状態が3日以上続く場合は、小児科を受診したほうがいいでしょう。貧血や、朝体調が悪くて起き上がれない起立性調節障害など、違う病気が隠れている場合もあります。

(取材・文/熊谷わこ)