東野幸治

 いまや大御所MCとなり、安定した人気を博している東野幸治(56)。現在は関西ローカルも含め7本の地上波番組にMCとして出演中。さらには「BSよしもと」でレギュラー番組が2本、ラジオの深夜番組に加え、自身のYouTubeチャンネルを2つも手がけ、うち1本は編集も担当するなど、大御所芸人とは思えないほどの稼働ぶりだ。

 来年で芸歴40年になる東野だが、なぜ今、こんなにも働き続けるのだろうか。お笑い業界に詳しい放送作家はこう語る。

「東野さんはスタジオ収録だけでなく、YouTubeなどでは前のめりにロケをしていますし、実は60歳以降は地方に住みたいという気持ちがあるため、移住先を求めていろんな地方を巡る特番も定期的にやっています。芸歴的にはスタジオでどっしり構えていてもいいはずなのに、BSよしもとも含めると、細かい仕事にも全力で取り組んでいます。関西ローカルの番組もお笑い純度が高かったり、ローカルならではのとがった意見も飛び交いますが、それをMCとして見事にさばいています。配信サイトでローカル番組も全国で見ることができる今、東野さんのMCとしての評価はうなぎのぼりです」

 バラエティーも情報番組も仕切り、ロケもこなす東野。デビュー当時からコンビ同然の距離感で切磋琢磨(せっさたくま)してきた今田耕司は一足先に大御所となった感があるが、現在の東野の勢いは今田以上だろう。長年、ピン芸人として活躍し続けてきたが、やっと自分がやりたい仕事を自分のペースでやれるようになったということかもしれない。

東野幸治

■吉本の派閥を「横断」

 一方、最近では自身のラジオ番組で「昔は吉本興業に派閥があったため、紳助さんが司会をしていた『オールスター感謝祭』に出たいって直訴しても出してくれなかった」という旨を告白したこともある(ABCラジオ「東野幸治のホンモノラジオ」4月12日放送)。吉本興業の“生き証人”として、内部事情を赤裸々に語れるのは今、東野しかいないかもしれない。

「東野さんはダウンタウンファミリーですから、ナインティナインの派閥や、紳助さんやさんまさんの派閥とは社員間でも争いがあったため、なかなか共演がかなわなかったということをラジオで語ったんです。あの話は、今の東野さんだから語ることができる。ダウンタウンファミリーの中でも先んじてナイナイやさんまさんとがっつりと共演し、紳助さんに至っては『行列のできる相談所』で親交を深め、紳助さん引退後は番組MCを引き継ぐほどの間柄になりました。吉本内のあらゆる派閥の垣根を飛び越え関係を深めたからこそ、今の東野さんのポジションがある。ご本人は芸人本を出版するなど“芸人愛”が強いため、こういった特攻隊長的な役割が肌に合ったと見る向きもありますが、大御所なのに派閥を問わず先輩や後輩にもグイグイいける東野さんのスタイルが、今の成功につながったのでしょう」(前出の放送作家)

 現在、「ワイドナショー」(フジテレビ系)のMCを担当しているため、闇営業問題や松本人志の休業など「吉本興業の危機」に関しても向き合わざるを得ない東野。それでも、在阪のテレビ局スタッフは「場数を踏んでいるので、そう簡単には事故らないのが東野さんの最大の強み」と語る。

東野幸治と交流が深い松本人志

■プライベートでは松本とも「一線」

「松本さんの騒動の余波で、芸人たちの夜遊びがアンタッチャブルなものとなりましたが、東野さんは結婚したのも早いですし、すでにお孫さんもいる。昔から夜遊びをほとんどせず、プライベートでは松本さんと一線を引いていたので、やましいところがないんです。だから、ワイドショーでもあれだけ正面を切って話せるという強みがある。現在、第一線で活躍する芸人もたたけば多少のホコリは出るでしょう。しかし、東野さんはどれだけ過去をさかのぼってもスキャンダルが一切無いんです。テレビ局側としてもこんな安全な芸人はいない。また、遊びをしない分、読書や映画を見るのが大好きで、最近では韓国ドラマの感想をSNSに投稿して、新たなファンも生まれています」

 お笑い評論家のラリー遠田氏は東野が引っ張りだこの理由をこう述べる。

「東野さんの強みは、どんなときでもフラットな視点から物事を見て、純粋にそれを面白がることができるということです。普通の人は何かを見るとすぐに感情が動いてしまうので、目の前にあるものを感情抜きに冷静に見ることがなかなかできません。芸人仲間からは『白い悪魔』と呼ばれるほど、感情表現に乏しくて普段何を考えているのかわからないと言われていますが、他人よりも感情が動かない分だけ、一歩引いた目で状況を見たり、人の弱みを見つけてそれを面白がったりすることができるのでしょう。司会者として番組をまとめたり、芸人にキツいイジりを仕掛けて爆発的な笑いを起こすことができるのは、このフラットな視点があるからなのです」

 新しいタイプの大御所芸人となった東野。松本不在でお笑い界が混沌(こんとん)とするなか、ますます出番が増えそうだ。

(藤原三星)