モータージャーナリストの大谷達也さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アルピーヌA110Rチュリニ、BMW XM、ジープ・ラングラー・アンリミテッド・ルビコン4xe、ミニ・ジョン・クーパー・ワークス、ポルシェ911GT3 RSに乗った本音とは?


互いに語らうことができる

ジープ・ラングラー4xeに同乗してくださったEPCのメンバーは、これまで「ちょっと古い」日本のスポーツ・モデルに乗り続けてきたそうだけれど、ハンドリングと乗り心地のバランスが優れたラングラーのシャシー性能に感銘を受けているようだった。ミニ・ジョンクーパー・ワークスの助手席に腰掛けてくださったメンバーはフランス製スポーツカーのオーナーで、あまりミニには興味をお持ちではないようだったが、その元気な走りに目を丸くしていた。つまり、2台ともブランド・イメージや容姿からは想像できないキャラクターを備えていたわけで、そんなところがガイシャの魅力ともいえるわけだけれど、私自身がいちばん嬉しかったのは、ガイシャをひとつの媒介としてお客さまと語らう時間を共有し、元気をいただいたことにある。やっぱり「ガイシャはクルマ好きの元気の源」なのだ!




アルピーヌA110Rチュリニ「最大限の賛辞を送りたい」

ブランドの完全電動化を間近に控えたアルピーヌ。そんな彼らが、ここのところA110のリミテッド・エディションを精力的にリリースしていることはご存知のとおり。A110Rチュリニもそんな1台で、日本には24台のみがやってくる。その特別感をマシマシにするためにカーボン・パーツをこれでもかというくらい採用。結果、1550万円なんていう破格のお値段になっているが、ディエップの技術者たちが本当にすごいのは、高級装備てんこ盛りのハイパフォーマンス・モデルにしても、A110というスポーツカーの本質を1mmも見失っていない点にある。個人的には、低重心とヨー慣性の小ささ、そしてしなやかなサスペンションによる優れたロード・ホールディングにA110の魅力はあると思っているけれど、そうした特徴はA110Rチュリニにも完璧に引き継がれていて、荒れた路面でも安定したグリップ感を生み出してくれるほか、たとえテールがスライドし始めても瞬時にそれを修正できるコントロール性の高さを常に感じさせてくれる。ホンモノのスポーツカーとして最大限の賛辞を送りたい。




BMW XM「腰高感ゼロ!」

最近のBMWはどれに乗っても本当にいいクルマばかりだけれど、このXMは、ほかのどんなBMWとも大きく異なっているという意味において、彼らの実力が驚くほど奥深く、そして幅広いことを物語っているように思う。

足まわりの設定は潔いくらいハードだけれど、これがさほど不快に思えないのは、きっとボディ剛性が通常ありえないくらい強固だから。しかも、ステアリングの取り付け剛性を始めとして、クルマのありとあらゆる部分が驚くほど頑丈に作り込まれていて、タイヤからの情報を余すところなくドライバーに伝えてくれるとともに、ドライバーの操作を細大漏らさずクルマの動きとして反映してくれる。

さらにサスペンション・レイアウトが巧妙なおかげで、SUVにありがちな腰高感はゼロ。その俊敏で精度感の高いハンドリングは、よくできたスポーツカーを彷彿とするほどだ。V8エンジン+プラグイン・ハイブリッドのパワートレインは瞬発力の鋭さが売り物。敢えてBEVを選ばなかった理由も、その軽快な走りを楽しめばはっきりと理解できることだろう。




ジープ・ラングラー・アンリミテッド・ルビコン4xe「これはあり!」

「ラングラーにプラグイン・ハイブリッドなんて“けしからん”!」なんて当初は思っていたけれど、これが乗ってみるとびっくり仰天。姿勢がフラットに保たれるのにゴツゴツ感の薄い乗り心地は、前後ともリジッド・アクスルであることが到底信じられないほど。ハンドリングにしても、切り始めのところに多少の遅れが感じられたものの、これにはスタッドレス・タイヤを履いていた影響もあったはず。いっぽうでEV航続距離はWLTCで42kmもあるから、条件次第で最初の1時間近くはエンジンをかけずに走ることだってできる。そんな未来感覚が、洗練された仕上がりのシャシーの印象と意外なほどマッチしていることには驚くばかり。環境に優しいプラグイン・ハイブリッドを採用したのも、自然豊かな大地に足を踏み入れるクロカン4WDの宿命を考えれば当然かもしれない。そんなときには、低速域でモーターが生み出してくれる強力なトルクが頼りになるはず。だから、試乗を終える頃には「うん、ジープにもプラグイン・ハイブリッドはアリだな」なんて思い始めているほどだった。




ミニ・ジョン・クーパー・ワークス「大人を元気に!」

“ゴーカート・フィール”のハンドリングを生み出すため、サスペンションをハードに締め上げたモデルが少なくないミニ。そのなかでも、いちばんヤンチャなグレードがジョン・クーパー・ワークスだから、もしも本気で足まわりをガチガチに固めていたらまともに走れるはずがないと覚悟していたのだけれど、最新モデルは意外なほど足まわりがしなやかで快適だったうえ、ハンドリングもブレーキ・トルク・ベクタリングをガンガンに効かせていたかつてのセッティングとは大違いで、自然なロールを伴いながら滑らかにターンインしてくれる。おかげでロード・ホールディングが格段に向上し、路面が荒れたワインディング・ロードでも安心してハイ・アベレージを保てたほど。最高出力231 psの2リッターエンジンだって気難しいところは一切なく、踏めばいつでもどこでもパワーが湧き出てくる。ここまで一気にミニが洗練されたのは、きっとBMWの現行型2シリーズと共通のプラットフォームを採用した恩恵 だろう。オトナ に なったミニ は 、オトナ の あ な たをきっと元気にしてくれるはずだ。




ポルシェ911GT3 RS「全身に電気が走る」

こんなの反則技に決まっている。9000rpmまで回る超高回転型自然吸気フラット6とパワフルなエアロ・ダイナミクスの組み合わせに、レーシングカーもかくやというくらい多彩で柔軟なセッティング項目を盛りこめば、従来のロードカーをはるかに凌ぐパフォーマンスと刺激を生み出せるのは当然のこと。7000rpmオーバーまで回してワインディング・ロードを駆け抜けると、全身に電気が走ったかのような衝撃と、脳ミソがトロットロに溶け出したみたいな恍惚感を味わえる。乗り心地はロードカーとして限界的にハードだけれど、例によってポルシェの技が冴え渡っているのは、これだけ多種多様なファクターを見事に調律し、1台のクルマとして破綻なく仕上げてしまう点にある。「いつまでエンジン車を作り続けられるかわからないし、ここらで一発、派手にやるか!」というヴァイザッハの意気込みさえ感じられる911の最高到達点……といいつつ、次作であっさりこれを乗り越えたりするのも、ポルシェだったらありうるような気がしないでもない。いずれにせよ、元気になること間違いナシの1台だ。

文=大谷達也

(ENGINE2024年4月号)