今注目の書籍の一部を公開して読みどころを紹介するシリーズ。今回は、新NISAでのつみたてに特化して解説した勝盛政治著『新NISAでつみたては会社員の最強アイテム』の一部を特別に公開します(全3回/本記事は第1回)。

※本記事は勝盛政治著『新NISAでつみたては会社員の最強アイテム』(高橋書店)から一部を抜粋・再編集したものです。

「NISAでつみたて」とiDeCo 軍配は「NISAでつみたて」

NISAでつみたてとiDeCo(個人型の確定拠出年金)は、老後に向けた資産形成の手段の代表格としてよく引き合いに出されます。両方とも税制面で優遇制度が適用されているので、利用するに越したことはありません。そのうえで両者の違いを確認し、会社員にとっての視点も交えて、どちらがどのようにいいのか一緒に考えてみましょう。

【商品面】NISAつみたて投資枠は運用商品のみ、iDeCoは元本確保もあり

商品面で比較すると、NISAつみたて投資枠のほうが分かりやすさを強く打ち出しています。iDeCoでは、お金を回す商品の中には運用するための投資信託以外にも、保険商品や定期預金など、元本確保型の商品も用意されています。先ほどの話で言えば、長期・積立の預金型と運用型の両方が用意されている格好です。iDeCoはあくまでも年金制度であり、運用だけを前提とした制度ではないからです。

それに対して、NISAつみたて投資枠でお金を回す商品は投資信託のみに限定されています。しかも、NISAつみたて投資枠は、運用による資産形成を支援するための制度なので、用意されているのは長期投資目的の投資信託だけです。

実際に、どういう商品にお金を回しているのかを比べると一目瞭然です。確定拠出年金の場合には、企業型、個人型ともに元本確保型の割合もかなり高いです。ほんの数年前までは半分以上が元本確保型でしたので、これでも以前よりは低下しています。

元本確保型の割合が高いことには理由があります。企業型は会社が用意してくれる年金です。そのため従業員が自ら進んで加入するものではないことから、商品を選ぶ際に「確実な元本確保型」を選んでおく誘因が働きます。その割合が低下してきたのは、継続的に投資教育をすることが企業側に求められてきたことによる社員の知識向上に加え、自分の意志で商品を選ばない場合には、運用商品が選ばれるように促す動きが増えたことによるものです。

企業型年金を運営する側からすると、社員が元本確保型だけにしておくと、将来的に多くの年金を得ることができないので心配です。たとえば、従来型の年金であれば企業が母体となった年金基金が責任を持って年率2%程度で運用していたものを、制度を切り替えて確定拠出年金にした場合に社員が運用を選択しないと、30年後に受け取る金額は30%程度の差が出ます。こういう背景から、加入者である社員には運用を行ってもらいたいという企業側の想いがあります。

ただ、確定拠出年金における運用は、加入者の自己責任なので無理強いはできません。そのため、社員向けの投資教育を通じて動機づけをしています。企業に勤めている人、特に大企業に勤めている人は、会社の健康保険組合などとともに、企業年金も当たり前の福利厚生と受け止める向きもありますが、ありがたい制度なのです。

一方でiDeCoと呼ばれる個人型の場合は、自らの意志で金融機関を通じて申し込みを行います。そうであれば、申し込んだ時点で運用商品を選びそうなものですが、現実はそうなっていません。これは、iDeCo利用の勧誘や説明において、入口での税金面のメリットを強調していることが多いためと思われます。

iDeCoの掛け金は社会保険料として課税の対象から控除されるので、その分だけ所得税、住民税が減額されます。年間数万円にもなるこのメリットを得ようとしてiDeCoに加入しているのであれば、掛け金は運用しなくても元本確保型においておけば目的は達せられます。そのため、iDeCoに加入してもわざわざ運用商品を選ばないケースが多いのです。

これに対して、NISAつみたて投資枠で選べるのは運用商品のみですから、必然的にお金はほぼ100%運用に回されます。しかも、運用において株式資産を含むこと、インデックス運用中心で分散投資が反映されたものであること、手数料は低いといった配慮がなされています。目的が明確で、その目的に適った運用商品が採用されている点がはっきりしています。

確定拠出年金においても長期投資に適している運用商品が採用されていますが、採用するのは、企業型であれば各企業の制度を運営している主体であり、個人型iDeCoでは申し込み先の金融機関が採用した商品から選ぶことになります。ここにはNISAつみたて投資枠のような、明確で一律なコンセプトや採用基準はありません。

そもそも制度が違うのですから、NISAと確定拠出年金で採用されている運用商品に単純に優劣をつけられるものではありません。ただ、今のところはNISAつみたて投資枠のほうが、より長期の資産形成を目的とした運用商品としての採用基準が明確です。

●第2回【NISAでつみたて vs iDeCo―実はあなどれない!? “制度にかかる費用”で比較】では、税制面及び費用面から「NISAでつみたて」とiDeCoの違いについて解説します(5月7日公開予定)。

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勝盛政治著『新NISAでつみたては会社員の最強アイテム』(高橋書店)