「奨学金がなかったら、今の自分は…」。福島大大学院で学ぶ23歳の男性は感謝を胸に、日々を過ごす。キャンパス生活を送る中で、大学教員になる夢を見つけた。来春、博士課程に進む▼ひとり親家庭に育った。母親は目が不自由で、仕事に就けない。本宮市の自宅から大学に通い、塾講師のアルバイトを続けた。弟が私立大に進学したいと打ち明けた。生活は決して楽ではない。「自分が学校を辞めるしかない」。当時は2年生。病気や事故、災害で親を亡くした子どもを応援する「あしなが育英会」の奨学金の存在を知り、迷わず申請した▼その奨学金に異変が起きている。今春、給付・貸与を申請した県内の高校生や大学生のうち、6割の28人が支援を受けられなかった。昨年の不採択より1割多い。物価高の影響などで希望者が増えたのが要因という▼寄付と街頭募金で元手をまかなっている。奨学金を受ける学生らは、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行した昨年から春と秋の2回、街頭で協力を呼びかける活動を再開させた。可能性の芽を摘んでしまいたくない。少しの善意の寄せ合いが若者の学びの場を未来に大きく広げていく。<2024・5・16>