インタビューが始まるなり「まあまあ、そんなにかしこまらないでよ!」と大きな笑顔を浮かべた、NECグリーンロケッツのマリティノ・ネマニ選手。一瞬にして相手の緊張をほぐす技を見せたチームの副将は取材中もすれ違う選手たちからの挨拶や掛け声が絶えなかった。年齢も国籍も幅の広いチームメイトを率いるが考える、優れたリーダーシップとは?

―いろんな国に住んだけど、日本が一番!
ラグビーを始めたのは10歳のとき。父親の仕事の関係で、オーストラリアに移住したのがきっかけ。それまでは趣味程度にサッカーをしていたんだけど、ボールのコントロールが下手でね(笑)。ラグビーを試してみたら、「これだ!」ってピンと来たんだ。

そのままオーストラリアでプロ入りし、ニュージーランド、フランスのチームを経て日本へ。どの国にもそれぞれの魅力があるけど、僕にとって、間違いなく日本がベスト! 

ラグビーのフィジカルな面が好きな反面、けがが絶えないのがネック。けがそのものよりも、復帰に向けた準備が大変なんだ。精神的にも、肉体的にもね。それが辛くて、何度も引退を考えた。でも今は「諦めなくてよかった!」と心からホッとしている。そのおかげで、こんなに素晴らしい国に住めているのだから!

―食事もラグビーも“試す”ことが大事
日本の好きなところは、まず、人がとびきり優しい。日本人の謙虚さと礼儀深さに、何度も感動させられたよ。それから、日本食! 世界中で食べられるお寿司も、やはり本場の味にはかなわない 。。来日したての頃に「オーストラリアで食べていた寿司は、何だったんだ!?」とがくぜんとしたのを、今でもはっきりと覚えている。日本に遊びに来た父親と祖父も、まったく同じことを言っていた(笑)。

一番の好物は、馬刺し。チームメイトから勧められて 食べてみたら、あまりの美味しさに感動したよ! 生肉を食べた経験がなかったからドキドキしたけど……食べず嫌いをしていたら、こんな出会いはないからね。なんでも試すようにしている。

“試してみる”精神は、ラグビー選手としてのあり方にも通ずると思う。NECグリーンロケッツでは副将を務めていて、僕はとくに若手の育成に力を入れている。彼らのプレーを見て「もっとこうした方がいい」と感じたら口で言う前に、まずは手本となるプレーを自ら実践して見せるんだ。

―リーダーに欠かせないのは“尊敬されるための努力”
“子供は親の鏡”と言うのと同じように、自分がいいプレーをすれば、それを見て育った選手達も、自然といいプレーができるようになると信じているんだ。さらに、自分の価値を示すことにもつながる。価値がわからない相手を、心から尊敬するのは無理だろう?敬われることなくして、リーダーシップは成立しない!というのが持論さ。

そしてもうひとつ、僕がリーダーとして大切にしているのが、“考えを押し付けず、相手の答えを引き出す”こと。もし選手から質問を受けたら、僕はまず、「君はどう思う?」と聞き返すんだ。経験上、他人に与えられた答えを受け入れるだけでは、身にならない!人は自分で考えることでより理解が深まるし、納得できるんだよね。なかには自分で思いもつかなかったアイデアが出てきて、僕自身も学びになるよ。

チームには専属の通訳がいるけど、通訳を通しての会話って、どこか違和感があって…。なるべく自分の言葉で伝えるようにしているんだ。そのためにも、週2回の日本語のレッスンはかなり真剣に受けているよ!日本語のレベルはまだまだだけど、簡単な英単語とジェスチャーを交えれば、意思疎通はできる。むしろ難しい言葉で伝えるよりも、この方が、気持ちがしっかり伝わるような気もする。

―オンオフのメリハリをつけて、息抜き!
僕たちのチームはとくに仲が良くて、練習後もカードゲームをしたり、コーヒーを飲んだりしているよ。余裕があるときには、自宅にみんなを招いてディナーパーティをすることも。それから、試合に勝った後はみんなでご褒美に飲みに行くんだ。祝い酒ほど美味しいお酒はないね!!

オフの時間には、ラグビーの話は極力しないように心がけている。ずっとラグビーのことばかり考えていると、ストレスが溜まってしまうから。どんな仕事でも、息抜きは大事! くだらないジョークを言い合ったり、その日のニュースについて語ったり……独身の選手には、「彼女できた?」なんて恋愛トークを持ちかけたりもする(笑)。

とくに外国人選手とはプライベートについて話をするようにしているかな。僕を含め、家族と離れていると、チームメイトが一番身近な存在だから。日頃から声を掛け合っていれば、相手の体調や気持ちの変化にも気付けるし、助けも求め合いやすい。海外で孤独を感じることほど、辛いことはないからね。

―日本でハグ文化を広めたい!
僕にとってチームメイトひとりひとりが大切なブラザー(兄弟)。国籍や年齢は関係なく、みんなとフランクに接しているよ。それと同時に、日本の年上を敬う文化もリスペクトしている。だから先輩選手や選手の両親と会ったときには、お辞儀をするんだ。

代わりに、チームメイトの子供たちとは思い切りハグをするんだ! 海外では、奥さんとも挨拶代わりにハグをするけど……日本では浸透していないみたいだね(笑)。でも誰だって、ハグをされたら気持ちいいもの。仲も深まるしね! ハグ文化は、これから徐々に広めていきたいな。

マリティノ・ネマニ 1991年5月25日生まれ、フィジー出身。ポジション:センター、181cm/100kg。父親の仕事の関係でニュージーランドとオーストラリアに在住。10歳でラグビーを始め、ラグビーの強豪校として知られるサクレッドハートカレッジへ進学。10年、フィジー代表としてIRBジュニアワールドチャンピオンシップ出場を果たす。11年、ニュージーランドのチーム、ホークスベイに入団。その後、同じくニュージーランドのベイ・オブ・プレンティー、フランスのFCグルノーブルを経て、17年に現在所属するNECグリーンロケッツに加入。