「北欧の神秘 ― ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」

本展は、ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館の協力により、それぞれの美術館から選ばれた約70点の貴重なコレクションが展示されます。

今回取り上げる3カ国は、ヨーロッパ大陸と陸続きでありながら、北方特有の気候と風土の中で独自の文化を育んできました。代表的な画家には、ノルウェーのエドヴァルド・ムンクやフィンランドのアクセリ・ガッレン=カッレラがいます。

この展覧会は、豊かな自然、独自の文化、そして魅力的な神話を題材にした絵画を通じて、日本における北欧のイメージを新たな視点から再考する機会を提供することでしょう。

本展の3つの見どころ

北欧絵画の深い魅力など、見どころとなる3つのポイントを紹介します。

見どころ①:日本初の本格的に北欧の絵画に焦点を当てた展覧会

エドヴァルド・ムンク《ベランダにて》1902年、油彩・カンヴァス、86.5×115.5 cm、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Børre Høstland

ノルウェー、スウェーデン、フィンランドを代表する画家たちの選りすぐられた作品が集結。ノルウェーからは、エドヴァルド・ムンクに加えて、森に住む動物や怪物が登場するおとぎ話の世界を描いたテオドール・キッテルセンの作品が展示されます。

スウェーデンからは、劇作家および小説家としても知られるアウグスト・ストリンドバリによる絵画も出品されます。

見どころ②:おしゃれなデザインだけでない北欧の知られざる一面を紹介

アウグスト・マルムストゥルム《踊る妖精たち》1866 年、油彩・カンヴァス、90×149cm、スウェーデン国立美術館 Photo: Cecilia Heisser / Nationalmuseum

北欧と言えば、シンプルで機能的な家具やかわいらしいデザインの雑貨、服が広く知られていますが、19世紀以降には、その豊かな自然風景や、神話、地域に伝わる民話をテーマにした独特の絵画スタイルも生まれました。

北欧3カ国の国立美術館の協力により集められた、見応えのある作品群を通して、北欧の知られざる一面を体験していただけることでしょう。

見どころ③:北欧独特の自然風景や神話、民話をモチーフにした絵画

19世紀以降には、北欧独特の自然風景や神話、民話をモチーフにした絵画が現れました。これらの作品は、北欧諸国がヨーロッパの強国に対して社会的、文化的な独自性を追求した歴史の中で生まれたものです。

北欧ロマン主義絵画が描いた、広大な山々、荘厳な滝、流氷の漂う海、白夜や極夜の下の神秘的な光景、北欧神話や民間伝承などのテーマは、文学やファンタジー映画、アニメ、RPGゲームなど、さまざまな分野でイメージソースとして取り入れられています。

展覧会を訪れることで、新宿の喧騒を抜けて、超高層ビルの裾野に位置する美術館で北欧の神秘的な世界に触れることができます。

展示構成の紹介

19世紀から20世紀初頭に活躍したノルウェー、スウェーデン、フィンランドの代表的な画家たちの作品を通じて、北欧美術の形成から発展までを4つの章に分けてわかりやすく解説します。

序章 神秘の源泉─北欧美術の形成

キャプション:ロベルト・ヴィルヘルム・エークマン《イルマタル》1860 年、油彩・カンヴァスに貼った紙、79×111.5cm、フィンランド国立アテネウム美術館 Photo: Finlands Nationalgalleri / Hannu Aaltonen

19世紀のナショナリズムの高まりと共に、北欧諸国ではイタリアやドイツ、フランスの影響を受けてきた芸術から独立し、自国固有の美術を模索する動きが強まりました。

この期間、北欧固有の自然や神話、民話を取り上げることで知られる作品群が次々と生み出され、ロマン主義の影響を受けて、北欧の風景を描くことで、観賞者の記憶や想像力を刺激する作品が誕生しました。

また、北欧神話や民話を描いた絵画は、当時の印刷・複製技術の進展と共に、広く人々に受け入れられました。

マルクス・ラーション《滝のある岩場の景観》1859 年、油彩・カンヴァス、78×124cm、スウェーデン国立美術館 Photo: Nationalmuseum

I 自然の力

ニルス・クレーゲル《春の夜》1896 年、油彩・パネル、48.5×60.1cm、スウェーデン国立美術館 Photo: Erik Cornelius / Nationalmuseum

19世紀後半のヨーロッパでは、象徴主義が芸術界に広がり、北欧の絵画にも大きな影響を与えました。この時代の急速な工業化と都市開発が進む中で、多くの人々が自然への回帰や自然との調和を求めるようになり、北欧の画家たちも、この自然への関心を背景に、独自の風土や気候の特徴を取り入れた絵画を追求しました。

特に、壮大な山々、深い森、美しい湖、夏の白夜や冬の極夜、そしてオーロラなど、北方特有の自然現象を題材にした作品が多く生み出されました。四季の変化を捉えた風景は、特に冬の独特な光景を通じて、北欧絵画の魅力的な特徴を形成しました。

ヴァイノ・ブロムステット《冬の日》1896 年、油彩・木製パネル、26.5×52cm、フィンランド国立アテネウム美術館 Photo: Finlands Nationalgalleri / Hannu Pakarinen

II 魔力の宿る森─ 北欧美術における英雄と妖精

テオドール・キッテルセン《トロルのシラミ取りをする姫》1900 年、油彩・カンヴァス、45.5×68.5cm、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Børre Høstland

19世紀ヨーロッパで、国家や民族のアイデンティティに対する関心が増す中、忘れ去られつつある伝統文化への注目が高まりました。この時期、北欧の芸術家たちは世界的な芸術トレンドと自国の文化伝統の双方に目を向け、特に民話や伝承からインスピレーションを受けました。

北欧のおとぎ話や民話、特に『カレワラ』などの神話や物語は、深い森や魔法の存在が特徴的で、これらは絵画においても重要なテーマとなりました。これらの神秘的な物語は、北欧絵画の独特な特徴を形成し、未知の冒険や神秘体験を視覚的に表現しました。

ガーラル・ムンテ《帰還するオースムンと姫》1902-1904 年、油彩・カンヴァス、62×126.5cm、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Jacques Lathion

III 都市─ 現実世界を描く

アクセリ・ガッレン=カッレラ《画家の母》1896 年、テンペラ・カンヴァス、33×29cm、スウェーデン国立美術館 Photo: Bodil Beckman / Nationalmuseum

19世紀の都市発展は、人々の生活や芸術に大きな変化をもたらしました。絵画では、伝統的な神話や歴史的場面から転換し、新しく都市の風景や日常生活が描かれるようになりました。

北欧の画家たちは、近代都市の独特な光景や、都市化による社会問題をテーマに取り上げ、現代のリアリティを作品に反映させました。これにより、都市生活の魅力とともに、貧困や病などの暗い側面も浮き彫りにされました。

エウシェン王子《工場、ヴァルデマッシュウッデからサルトシュークヴァーン製粉工場の眺め》油彩・カンヴァス、90×100cm、スウェーデン国立美術館 Photo: Erik Cornelius / Nationalmuseum

さいごに

北欧の国々がどのようにして独自の文化的アイデンティティを築き上げ、自然、神話、民話といったテーマを美術に取り入れていったかを探ります。北欧の美術が持つ独特の魅力を深く理解できる貴重な機会であり、美術愛好家はもちろん、北欧の文化や歴史に関心がある人々にとっても、非常に興味深い内容となっています。

開催概要

『北欧の神秘 ―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』 SOMPO美術館
開催期間:2024 年3月23日(土)〜 6月9日(日)
所在地:東京都新宿区西新宿1-26-1
アクセス:JR 新宿駅西口から徒歩5分
東京メトロ 新宿駅から徒歩5分
東京メトロ 西新宿駅C13出口から徒歩6分
西武新宿線 西武新宿駅から徒歩7分
大江戸線 都庁前駅A1出口から徒歩7分
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで) ※最終入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月29日、5月6日は開館 振替休館なし)
観覧料:一般/事前購入券1,500円、当日券1,600円、
大学生/事前購入券1,000円、当日券1,100円、
高校生以下無料 身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳を提示のご本人とその介助者1名は無料、被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料
公式サイト:『北欧の神秘 ―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』 SOMPO美術館