カシオ計算機の関数電卓が売れている。年間2200万台ほど売れているというが、その大半は海外の国(100カ国以上)が占めている。なぜ日本ではなく、海外で人気を集めているのか。

 「関数電卓」と聞いて、イメージがわかない人も多いかもしれない。三角関数や指数関数などの計算ができたり、式や数字が見やすかったり、表やグラフが表示されたり。理系の学生は使ったことがあると思うが、なぜ複雑な計算ができる電卓が海外で広がっているのか。その理由について、カシオ計算機でマーケティング部門を担当する熊田太郎氏と星登氏に話を聞いた。

●出荷台数の大半を海外が占めるワケ

 同社の関数電卓が海外で支持されている理由として、(1)製品自体の魅力や流通、戦略面での強み、(2)海外ならではの関数電卓の使われ方の2点がある。

 1つめは、1972年に日本初の関数電卓「fx-1」を発売して以降、利用現場のニーズを反映してきたことが挙げられる。基本スペックが高かったり、電池が長持ちだったり、専用機を開発したり。このほか、各国の教育機関との連携にもチカラを入れてきた。

 2つめは、日本ではイメージがわきにくいかもしれないが、海外では学生時代から関数電卓を利用する機会が多いといった特徴がある。濃淡はあるが、同社がまとめた世界での関数電卓の使用状況を見ると使われ方は大きく2つに分類される。

●世界における関数電卓の使用状況

 1つめは中学・高校の授業や大学入試で関数電卓を必須ツールとしているところがあって、米国、欧州、オーストラリアなどの先進国がそれに当たる。

 2つめは中学・高校の授業で使っているエリアだ。ブラジル、中国、インドなどが該当する。

 あと、関数電卓がそこまで普及していない東南アジアやアフリカにも注目している。タイやエジプトなど8カ国を重点国として位置付け、関数電卓を使った学習を海外に広げる活動を展開している。

 「例えば、米国では大学進学に必要なSAT(大学進学適性試験)で、欧米では重要な試験で、それぞれ関数電卓の使用が認められています。スペックも指定があり、その場合は必要に応じて指定されたスペックを満たすことを認めてもらう『認可取得』もしている」(熊田氏)

 特に先進国では、各国の教育事情に合わせて関数電卓を使用する仕組みが出来上がっていて、長年実績があるカシオ製が継続して利用されているというわけだ。

 加えて昨今は、「吹き上がる噴水の動きを数式で表したらどうなるか」など、教育現場で日常生活にあるものを数学と結び付け、論理的思考や探究的な学びを推進している。その際に利用するツールとして、同社の関数電卓が選ばれるケースがあるようだ。

●「学びの現場」を支援する取り組み

 では、なぜこのように各国のニーズを取り入れたり、流通網を確保できたりしているのだろうか。

 同社は長年「Boost your Curiosity(「学び」の支援を行い、あなたの学びへの「好奇心」を高めます)」を掲げていて、教育に携わる人との関係を「学びの現場」と定義。学ぶ人、学びを教える人、学びを開発する人を支援している。

 毎年8月には(コロナ禍を除く)、各国の教師を招いて「グローバル・ティーチャーズ・ミーティング」を開催。どのような機能を搭載すれば生徒が理解しやすくなるのか、どのような授業ができれば生徒の意欲につながるのかなどを議論することで、製品開発やサービスに生かしている。

●「ニセモノ」対策も

 世界中で関数電卓が広がる一方で、同社を悩ませていることがある。模倣品だ。特に開発途上国で増えていて、その対策に追われている。

 「海外の学校を訪問した際、生徒さんが『カシオの関数電卓を使っている』と言って見せてくれました。しかし、その約9割が偽物だったこともあって、この問題は深刻に受け止めています」(熊田氏)

 模倣品の多くは計算の精度や電池の持ちが悪いのに、そうしたモノが正規品として使われている現実がある。同社は関係機関や教育現場などと連携して、正規品をより入手しやすい環境を整えるなど、本物の普及に注力している。

 今後、どのくらいの数を目標にしているのか。「2026年度に2500万台」を掲げていて、この市場はまだまだ伸びると見ているようだ。各国の教育トレンドやニーズをくみ取りながら、関数電卓の新たな価値を提案していくという。

(熊谷ショウコ)