グランプリを筆頭に多彩な作品が並ぶ

 開催初日にはグランプリをはじめ、各賞の発表と表彰式が行われた。グランプリは京都市立芸術大学大学院修了の高田マル《こわれながらうまれる(間違った言葉)》。素材は「日記、ビニールシート、アクリル絵の具」。半透明のビニールシートの上に白い絵の具で日記が綴られている。

 日記は誰かに見せる前提で書かれるものではなく、それだけに心の動きそのものが記される。そんなパーソナルな日記が公共の場に展示され、不特定の鑑賞者に読まれことで新しいつながりのような「何か」が生まれ始める。だが、その日記はビニールシートの上にアクリル絵の具で書かれポロポロと剝がれやすいため、文字は展示中にパラパラと崩れて落ちていく。プライベートとパブリックの距離感と、センシティブな心の動きを表現した、はかなくも美しい作品だ。

 グランプリのほか、審査員賞や協賛企業による特別賞などが発表された。いずれも受賞に値する素晴らしい作品ばかり。というよりノミネートされた20作品すべてに、作家の繊細な感受性が余すところなく発揮されている。若い世代の発信力の高さに驚くばかりだ。

 審査員の中から藪前知子のコメントを紹介したい。

「今回の審査では、コロナ禍の特殊な環境の中で制作の第一歩を踏み出さなくてはならなかった世代が、どのように独自の表現に到達しているのかに自ずと注目することになりました。空間の欠落や身体の痛み、外界との違和感が一層研ぎ澄まされているのを感じ、とても刺激を受けました」

 その言葉通り、繊細で表現の純度が高い作品が多いと感じた「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2024」。鑑賞は無料。仕事の合間にでも、アートを通して若者たちの頭の中を探ってみたい。

(川岸 徹)