こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 ※イメージです「仲良しの友達と成績に差が出てギクシャクしてしまった」

「中学受験を機に、ママ友がやたらとウチの子の状況を聞いてくるから怖い」

「塾で子どもが嫌がらせを受け、いじめに近いような状況があるらしい……」

 受験をテーマに語るとき、必ずと言っていいほど、子どもの友達同士や、ママ友同士のトラブルを耳にします。

 中には泥沼の様相を呈しており、「ホントに?」と疑問に思うほどのケースも。しかし、愛する子どもの将来がかかり、また結果が点数や合格・不合格という明確な基準に置き換えられる中学受験は、どうしても他人への歪んだ感情になりやすいのかもしれません。

 こうした問題にとらわれないためには、親や子どもはどこに気をつけたらよいのでしょう。前回は子どもの発するSOSのサインについて伺いましたが、今回も引き続き、“中高一貫マニア”で、これまでに約2000人を指導してきたフリーランス家庭教師の長谷川智也さんに、話を聞きました。

友達トラブルが多い子の特徴

 甲冑メタルバンド「Allegiance Reign」のベーシストとしても本気で活動中の長谷川智也さん 家庭教師として25年以上のキャリアを持つ長谷川さんによると、友達同士のトラブルは「学力レベルによって傾向がある」といいます。

「テストの不正や嫉妬による問題が起きやすいのは、実は上位クラスよりも、塾の真ん中のクラスの子に多い傾向があります。彼らは平均点辺りにいるので自信がなく、異常なほど点数を気にするんですね。偏差値が高くなっていくと一定の自信もついてくるので、点数に執着する子は減っていきます。トラブルが起きやすい傾向として、親御さんは覚えておくと良いかと思います」

 長谷川さんも子どもと向き合っていると、3〜4年に1人くらいは、カンニングをして点数を取ろうとする子に遭遇すると言います。またそうした問題は、「性別でくくるのは乱暴かもしれませんが」と前置きした上で、女子生徒が多いのだとも話します。

「テストの不正も友達同士のトラブルも不正も、僕が25年以上見てきた中では、女子生徒のケースが多いです。親のトラブルも、パパ友同士は聞いた事がありませんが、ママ友同士の問題はとても多いです」

「LINEグループ」に起因するトラブルも多い

 近年、子ども同士のLINEグループをベースとしたトラブルは、たびたび社会問題として取り上げられます。実際にはどういったケースがあるのでしょう。

「入学後の話にはなりますが、僕が見ていた女子生徒の1人は、私立の女子中に入学後、いわゆる“仲良しグループ”で構成される2つのグループLINEに入ったらトラブルになったと話していました。『AグループとBグループ両方に入っているけど、どっちと仲がいいの?』と詰められたそうです。大人からすると本当に些細なことですが、こうしたトラブルは女子生徒の間ではとても多い印象です。

ただし、難関女子校では、こうしたトラブルはあまり耳にしません。上位校に行けばいくほど、個人主義の子が多くなるからです。また上位校ほど部活や勉強も忙しく、スマホを頻繁に触る暇が無い子が多いというのもあるでしょう」

 長谷川さんは指導に当たる際、「夜9時以降はスマホを触らないこと」といった指導をするそうです。これも優秀な子の家庭ほど、すでに親がそういった方針のケースも少なくないと言います。

「最近はLINEグループのトラブルも、InstagramやX(旧Twitter)でのトラブルに変化してきています。過去に聞いた話だと、Xでお友達のことを気軽に呟いたら、後々その子から『それは書いてほしくなかった』と言われ、トラブルになったという子がいました。その子には『いろんな人が見る場でそれを書いたら、書かれた相手はどう思うかを考えよう』と指導しますが、正直10歳そこそこの年齢でそれを求められるのは、大変だなとも思います」



たった一つの成功事例に振り回されないで!

ママ友で会話 子ども同士のトラブルと合わせて、ママ友同士のトラブルについてはどうなのでしょう。一部では受験校や合否は明かさないほうがいいとも聞きますが……。

「ママ友同士のトラブルでよく聞くのは、『ママ友の情報に自分が振り回されて疲弊する』といったものがあります。ママが集まり情報交換する中で『お姉ちゃんはこういうことして難関校に入れた』みたいな情報が明かされ、マウントを取られると同時に、その成功例に振り回されてしまうのです。

 でも考えて欲しいんですが、それはただの一つの成功事例でしかありません。お受験の代名詞として名高い佐藤ママ(佐藤亮子氏。4きょうだい全員を東大理三に合格させた教育評論家)だって、4人全員を東大に入れてはいますが、それぞれの子どもに対してフォローの仕方を変えています。きょうだいであったとしても同じやり方では上手くいかないことを体現してくれているのです。

 つまり、ママ友の話は、ただのエビデンスのない成功事例の一つでしかありません。たまたまそのやり方がその子に合っていただけという話。そういった素人情報は受験に必要ないし、自分の家庭に当てはまるのかは、しっかりと取捨選択しないと疲弊します」

 ママ友付き合いでは、しんどさの共有程度にとどめることをオススメすると長谷川さんは話します。

「5年生くらいになると、どうしても成績の上下が顕著に出はじめます。そうなったとき、子どもの成績の明かし合う関係性だと、上だろうが下だろうが、必然的的にしんどくなります。『お互い頑張ろうね』といった空気になるためにも、愚痴を言い合う程度の関係に留めることが重要です」

受験のプロが「受験の成功は親が1割」と力説する理由

 親が疲弊すると、当然子どもにいい影響はありません。他にも親同士の付き合いやスタンスについて、気をつけるべき点を教えていただきました。

「我が子の受験情報は不用意に明かさないほうがいいとは思いますが、『難関校に受かった』などの話は、当人が話さなくても勝手に広まりますので、ある程度割り切りましょう。そのときの親の対応としては、あくまでも子どもが頑張っただけだというスタンスを取って欲しいです。

逆に子どもの受験結果が思ったようにいかなくても、変に劣等感を持たず、運だと割り切りましょう。もちろん受験の運も、読書や計算力をつけることで巡りを良くすることはできます。しかし、そうはいってもコントロールできない要素はゼロにはできませんので、思い詰めないで欲しいです」

 長谷川さんに中学受験における運の要素の割合をズバリ聞くと、「運は4割!」と話します。意外と多くてびっくりするのですが……。

「中学受験は、子どもの努力が5割、運が4割、親の努力が1割だと思います。意外に思われるかもしれませんが、運の要素は結構大きいです。例えば塾選びでみたとき、1科目だけでも嫌いな先生がいたら終わりみたいなところがあります。転塾するにしても、慣れない環境におかれることによって基本的に学習効率が下がるので、ネガティブな要因になりやすいです。

 受験の前段階として公文式(公文教育研究会が提供する、自学自習形式で伸ばす塾)を始める子も多いですが、こちらも子どもの理解度に合わせて進める先生と、カリキュラムのペースを重視し、同じことを繰り返す先生がいます。これは校舎の当たり外れなわけですが、入るまでは分かりません。親は入塾後など、子どもの様子をしっかり観察する必要はありますが、運が悪かったと割り切るドライさも持って欲しいです」



「みんな努力している」子ども同士のトラブルを避ける考え方

草原を歩く小学生 主体はどこまでいっても子ども。長谷川さんの話からはそうした当たり前の事実を改めて実感しますが、では子どもが受験に取り組む中で、友達同士のトラブルを起こさないために身につけておきたいことはあるのでしょうか。

「上から目線にならず、他人には優しくしていく心持ちが大事だと思います。親御さんは、普段のコミュニケーションの中で、そういった視点を持てるよう導いてあげられたら良いですよね。受験勉強をしていると、自分よりもレベルの低い子との関係も当然出てきます。そうなったとき、自分の子が上から目線にならず、対等さを持ち優しくすることができるよう意識してみてください。

 また、どんな子も『自宅では頑張っているんだ』と思う謙虚さを持てるようにもしていって欲しいです。子ども社会にも“明らかな天才”と遭遇することはありますが、それでもみんな裏では頑張っているんだと親が教えて上げることで、子どもの中のしんどさを分散させましょう」

 受験期や受験後も、大事なのは友達づくりだと話す長谷川さん。とくに受験を「一緒に頑張ろうね」といった団体戦の様相に変えられると、子どものメンタルは安定しやすくなるといいます。

 しかし近年の大手塾の学習フォローや家庭へのフォローが手薄になる中で、深い友達は作りにくくなっているそうです。もしお子さんに同じような成績で同じような学校を選ぼうとする友達ができたら、それは超ラッキーなこと。親御さんはそういった存在を大切にするよう、お子さんを導いてあげられたら良いかも知れません。

【長谷川智也】

ブログ名はジュクコ。1980年兵庫県明石市出身。高卒の両親のもとに育つもハードな中学受験を経験。白陵中学校・高等学校を経て、東京大学卒業後、大手塾に勤務、人気講師となる。2009年に独立してフリーランスの「プロ家庭教師」に。年間300件を超えるコンサル申し込みが殺到する。甲冑メタルバンド「Allegiance Reign」のベーシストとしても本気で活動中。ブログ「お受験ブルーズ」を運営。近著に『中学受験 奇跡を引き出す合格法則 予約殺到の東大卒スーパー家庭教師が教える』(講談社)など。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518