「我われは勝つに値した」と久保建英は試合後のインタビューで答えた。まあ、たった1度のチャンスでも勝てるチームがレアル・マドリーなので、「勝つに値した」とは言えないかもしれないが、ソシエダが「負けるに値しなかった」ことは確かだ。

失点シーンのチュアメニのサイドチェンジ、カルバハルのノートラップの股抜きセンタリングというレベルの高いプレーが連続で出て来るところが、レアル・マドリーならでは。並みのチームならどっちかがミスになっているはずで失点はせず、「勝つに値した」という言葉が正しい感想であったはずだ。

ボール支配率で上回り、チャンス数で上回り、シュート数で上回り、CK数で上回り、敵陣での試合時間で上回っても、勝てないことがある相手がレアル・マドリーで、反対にソシエダが勝つにはそれらの数値で上回っている必要がある。下回っていてはソシエダは勝てない。レアル・マドリーは下回っていても勝てる。もちろん上回っていたら大勝する。

ソシエダは勝つためのことをすべてやった。「足りなかったのはゴール」、というのは明白だが、ゴールのためにはさっきの数値で上回る必要があり、それができた時点で監督と選手の仕事は終わっている。

これは、レアル・マドリー相手にCL準々決勝で敗退したマンチェスター・シティについても同じだ。勝てることをすべてやり足りなかったのはゴール。フィニッシュの精度が足りなかったわけだが、それを重々承知で「これ以上、選手たちに何を要求できるだろう!」とグアルディオラ監督は嘆いた。アルグアシル監督だって嘆く権利がある。

もう一つの久保の発言、「CLならファウルの笛は吹かれなかった」については、やはりCLでもファウルだったかな、と思う。

バレネチェアの足がチュアメニの足に引っ掛かって倒れた。ラリーガの笛が接触プレーに対して繊細過ぎるのは確かだが、それはボールをめぐっての足や体の入れ合いについてファウルと解釈してしまいがち、という意味。あのプレーではバレネチェアはボールを争っておらず、単に足を引っ掛けて倒しただけ。接触の解釈の問題ではない。よってファウルであり、その場で笛を吹かず、流してVARの判断に任せたのも含めて正しいジャッジだった。

ファウルになったせいで久保のゴールが取り消されたわけだが、久保個人としては完璧なゴールだった。利き足の左足で蹴ると見せかけて、DFとGKを寄せさせてから、右足でニアポストに軽くしかし強烈に蹴り込んだ。

ソシエダのレベルはパリ・サンジェルマンに敗退した頃に比べて明らかに上がっている。

久保のドリブル、センタリング、シュートのキレ、フィジカルコンディションは再び上がってきた。チームが敗れたからMVPには選ばれなかったが、「最も活躍した選手」という本来の意味なら、私のMVPは久保だ。

以前のコラムで紹介した台頭したベッカーは相変わらず良く、久保、バレネチェアと競い合えるレベルにある。トゥリエンテスも今季最高、と言えるほど良かった。今ならケガをしていたブライス、波があるザカリアンよりも上ではないか?

無得点だからCFオヤルサバルが責められがちだが、ハイレベルのCB陣相手でもきちんと枠にシュートを飛ばしていた。オドリオソラも不在のトラオレの穴を埋めて余りあった。スピードがありタッチが正確で、久保とのショートパスのやり取りでの突破には迫力があった。守備力ではトラオレが上だが、小技があるオドリオソラとの方が久保はコンビをやり易そうだし、見ている方も楽しい。

ソシエダはバルセロナ、バレンシア、ベティス、アトレティコ・マドリーとの対戦を残しておりカレンダーは厳しいが、最後まで欧州カップ戦出場権を争える戦力が整ってきたとみる。これら4チームとの試合はいずれもシーズンを締めくくるに相応しい見どころたっぷりのもの、となるはずだ。

文:木村浩嗣