想像力を最大限に働かせて起きうる被害を具体的に想定し、できる限りの備えをしたい。

 京都府と滋賀県に47キロにわたって走る花折断層帯でマグニチュード7・5の地震が起きた場合の被害想定を、府が16年ぶりに見直した。

 府内の死者は最大4600人、建物の全壊は11万710棟、半壊は14万7050棟に上ると予想している。

 2008年の前回予想に比べ、死者は約3割減、建物の全半壊も4割少なく見直した。耐震化率が78%から88%に上がったことが主な理由という。

 一方で、火災で焼失する建物は前回予想の2倍近い2万3千棟に上るとしている。電気機器や配線から出火する「電気火災」を新たに想定に加え、風速を強めに見積もったため、大きく上振れた。

 電気製品の転倒や停電後の再通電時に起きやすい電気火災は、1月の能登半島地震でも「輪島朝市」大火事や周辺で発生したとみられている。

 阪神大震災の火災の6割、東日本大震災の7割近くが電気火災だったという報告もある。

 京都市内は木造家屋が密集している地域が多く、今回の焼失予想の大半を占める。

 耐震化とともに火事リスクに備えねば、被害拡大は免れない。「感電ブレーカー」の普及を進めるなど、対策を急ぎたい。

 気になるのは、発災直後に府内人口の約半数にあたる130万人が断水に遭い、ほとんどの地域で復旧までに1カ月を要すると見込んでいることだ。

 能登半島地震では上下水道が深刻な被害を受けた。4カ月近くたっても奥能登地域を中心に復旧が遅れ、一部地域では仮設や簡易トイレの暮らしを余儀なくされている。

 人口が圧倒的に多い京都市内で同様の事態となれば、衛生面の深刻な悪化が懸念される。復旧までの代替策をどうするか。具体的に議論する必要がある。

 内外から訪れている観光客の避難も重要な課題だ。

 京都市が昨年にまとめ、今回の府の予想でも踏襲された地震被害想定では、帰宅困難者は37万人に上る。

 社寺や観光施設、ホテルなどを「一時滞在施設」とする方針だが、空き室が少ない繁忙期に多くの帰宅困難者を収容できるのか。「情報弱者」となりかねない外国人観光客への対応など、課題は多い。

 立命館大による花折断層帯を震源とする地震シミュレーションでは、京都市内の文化財建造物の1割で緊急車両が到達できない可能性も指摘されている。

 能登半島地震では、交通アクセスが限られた「半島の防災」も、大きな課題として浮上した。

 丹後半島をはじめ、府北部で道路やライフラインが寸断された場合の対応策などを検討し、これまでの防災想定の見直しを急ぐべきだ。