「老後生活の柱」となる公的年金をどう維持するのか。厳しい情報や想定も示し、国民的な議論を深めてもらいたい。

 来年の年金制度改革に向け、厚生労働省の社会保障審議会で議論が本格化している。今夏には5年に1度、年金財政を点検する「財政検証」が公表される。

 日本の年金構造は現役世代が保険料を払い、高齢者の年金に充てる「仕送り方式」である。少子高齢化の加速で、いっそう負担者が減って受給者が増えるのは避けられない。2004年の大規模改革で「年金は100年安心」をうたったが、約束した給付水準(現役収入の50%)の維持は厳しい。

 最大の焦点は、1階部分にあたる国民(基礎)年金の給付低下をいかに食い止めるかだろう。このままでは20年後に給付水準が3割近く目減りするとみられる。自営業者が多かった国民年金は、今やパートや無職の人が6割を占める。2階にあたる厚生年金に加入していない人も多く、貧困や生活保護の増加が指摘される。

 政府は対策の柱に、40年の納付期間(20〜59歳)を64歳まで5年間延ばす案を挙げる。現在の保険料で負担総額は約100万円増えるが、給付低下は緩和される。

 65歳までの雇用延長が進んだとはいえ、60歳で定年を迎えた後は非正規雇用になるなど、給与が大きく減る例が多い。月約1万7千円の新たな負担に耐えうるのか。丁寧な議論が欠かせない。

 国民年金の財源は保険料と公費で折半する。保険料負担を5年延長すれば、追加の国庫負担は40年度に6千億円、60年度には1・3兆円と試算される。政府は少子化対策や防衛費増に向け、社会保障費の削減を打ち出しており、どう整合性をとるのかも問われよう。

 比較的安定した厚生年金の財源を国民年金に「流用」し、全体の水準を底上げする案も検討されるが、会社員の中には給付減になるケースもあるようだ。2階建て制度の根幹に関わるだけに、広く理解を得られるだろうか。

 16年から順次進む厚生年金の対象拡大では、さらなる企業規模要件の見直しも議論されている。

 いずれも国民や企業に一定の痛みが伴う上、短期、中期の対策にとどまる。若者の6割が老後に経済不安を感じ、75%が年金について「維持困難」や「破綻」を想定しているとの民間調査もある。

 04年改革が行き詰まった原因を検証し、複数の選択肢とともに長期展望を示すべき時ではないか。