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「円安」のイメージ画像

画像=PIXTA

※本記事は、2024年4月26日時点の円相場や情勢を元に執筆しています。

日経新聞を読まない君でも、急激に円安になっていることは知ってますよね。海外製のブランド品の価格が上がったり、海外旅行の費用が上がったり、そのほか、日常生活のさまざまな場面で円安を実感することが増えていると思います。

日本銀行の金融政策決定会合が行われた4月26日の夜には、1ドル=158円台まで円が下落し、34年ぶりの円安水準になりました。もはや160円目前です。この円安、どこまで続くのか。そもそもなぜ円安が止まらないのでしょうか。今回は円安について考えてみましょう。

国が積極的な対策を打つこともないまま、円がどんどん安くなってきています。円安になると輸出企業に有利ということで、もともと産業界は円安に肯定的でした。最近は円安を背景にインバウンドも好調で、観光産業や百貨店などは一定の恩恵を受けているようにも見えます。しかし、流石に1カ月で7円も円安が進むのは行き過ぎですし、中東情勢の緊迫化で原油価格が上昇する中での円安進行は日本経済にとってマイナスが大きいということで、産業界からも対策を求める声が上がってきました。

今のところ、国は具体的な円安対策に動いていません。為替が急激に動くときには、国が通貨を買ったり・売ったりして通貨の価値を安定化させる「為替介入」という手段があります。

為替介入は財務大臣が指示をして、日銀がドルを売って円を買ったり、円を売ってドルを買ったりします。ちなみに今のような円安の時には、「ドル売り・円買い」の介入をします。今回の円安局面では、まだ介入の動きはありません。

市場関係者の間では、ずいぶん前から為替介入の可能性が囁かれてきました。1ドル=152円、その次は155円が介入の節目になるとみられていましたが、その節目を超えても円の下落が続きました。

なぜ、財務省と日銀は為替介入に動かないのでしょうか。

日銀の植田和男総裁は、4月26日の金融政策決定会合後の会見で、「物価上昇率に円安は今のところ大きな影響を与えていない」と発言しました。今の水準の円安は許容範囲ということのようです。植田総裁の発言により、日銀は円安の是正に積極的に動く気配なはなさそうだと多くの市場関係者は判断したたようです。会見前の午前は1ドル=156円台だったドル円が、会見後の夜には158円台まで円安が進みました。

一方、市場関係者の見方は異なります。今、為替介入をしても、円安・ドル高の流れを止めることができない、効果がないからやらないという見立てです。

今の円安の理由の一つは、「ドル高」にあると言いわれています。アメリカ経済は好調で、人口増加も続いていますし、生成AIの時代に不可欠な半導体のエヌビディアなど、時代をリードする成長企業や成長産業もあります。アメリカ経済の成長は今後も続く見通しで、IMF(国際通貨基金)は4月発表の「WORLD ECONOMIC OUTLOOK」でアメリカ経済の成長率見通しを2024年は2.7%、25年は1.9%と予想しました。ちなみに日本の成長率見通しは、2024年は0.9%、25年は1.0%です。経済の基礎的な条件が強いアメリカの通貨は、買われやすい=ドル高になりやすい状況にあります。

金利に着目して円安を説明する人もいます。日本とアメリカの金利差です。2カ国間で比較したとき、金利が高い方の国にお金が流れやすくなります。たくさん利息や金利がつく方に投資したいから、金利が高い方の国にお金が集まるわけです。日本は今年3月にマイナス金利を解除したばかりで、まだまだ低金利の状態。当然、アメリカの方が金利は高いです。この日米の金利差が拡大してきたことによって、円安が進みやすくなっていると考える専門家は多いです。

実は、2024年には、アメリカの物価上昇がひと段落して、アメリカは金利を引き下げることになるだろうと予想されていました。日本の金利は低いままですが、アメリカの金利が下がれば、金利差は縮みます。そうすると、円安が少しは是正されるのではないかと期待感されていたわけです。

しかし最近になって、アメリカ経済が思ったよりも好調なことがわかってきました。アメリカの物価の状況的にも、利下げは遠のいたと言いう見方が強まっています。日銀は金利を低いところに据え置いたままなので、このままではもっと日米金利差が開いて、円安が進むのではないか。こんな思惑から円安が進んでいます。

こんな具合に、今はドルが買われる条件が整い過ぎています。こんな時に為替介入をしても、円売り・ドル買いの流れを止めることはできません。したがって、日本は実際のところは「なすすべなし」と言いうのが為替の専門家たちの見方です。

未曾有の円安ゾーンに入ってきた日本。この円安、どこまで続くでしょうか。