名作リメイクのハードルは時代感?

 2024年4月25日にNetflixで公開された実写版『シティーハンター』は、現代に時代を移してリメイクされ、世界中で大ヒットしました。作品中ではスマホが当たり前に使われ、SNSが重要な役割を果たしています。

 それにもかかわらず、シティーハンターは新宿駅の伝言板で依頼を受け続けています。なぜメールやSNSなどのデジタルツールを使わないのでしょうか。

「週刊少年ジャンプ」でマンガ『シティーハンター』(著:北条司)の連載が始まったのは1985年のことです。当時、携帯電話は普及しておらず、家の外で電話をかけるには公衆電話を利用していました。

 そのような時代背景があったため、電話番号も分からない相手とコンタクトを取るのは非常に困難でした。だからこそ『シティーハンター』では「XYZ」の符号とともに、不特定多数がアクセスできる新宿駅の伝言板を利用していたのです。

 この方法は1985年当時としては非常に合理的で、『ゴルゴ13』のように手紙や新聞広告を使うよりもシンプルでした。原作では、依頼不足に悩むパートナーの「槇村香」が伝言板に依頼の書き込みがあるかを何度もチェックする様子が描かれています。

 しかし『シティーハンター』の舞台が現代なら状況は大きく変わります。依頼を集めるために伝言板を使う必要はなく、SNSやホームページ(闇サイト)で24時間365日集客できます。しかも伝言板をチェックする際に素性がバレる心配もありません。裏社会の伝説である「冴羽リョウ」の腕前なら、密かな口コミで広まるはずです。

 伝言板を使ったコンタクトはあまりにも非合理的に見え、ファンタジーのように感じられるかもしれません。そもそも現在は多くの駅から伝言板が撤去されており、存在自体を知らない人も多いでしょう。

 しかしNetflix版ではいまだに伝言板が使われています。これは原作を尊重した演出であり、単なるノスタルジーに過ぎないのでしょうか。あるいは、デジタル化に対する忌避感以外の合理的な理由があるのでしょうか。

 もしも『シティーハンター』が闇サイトを作り、インターネットを通じて依頼を受けたら、何が起こるでしょうか。リョウの知名度は裏社会でトップレベルなので、日本中どころか全世界から依頼が来る可能性は高いです。

 実際、作中では南米の麻薬密売組織「ユニオン・テオーペ」から勧誘されるほどの高評価を得ています。その結果、凄腕スイーパーとしての活動範囲が『ゴルゴ13』のように全世界に広がる可能性は高く、受けきれない依頼も多くなることでしょう。おそらくリョウはそれを嫌っているのではないでしょうか。

 ゴルゴと違ってリョウにはホームグラウンドがあります。都市の闇に溶け込み、ひっそりと人助けをするのが彼のポリシーでしょう。Netflix版で描かれた新宿歌舞伎町のような、猥雑でエネルギッシュな都会の闇こそ彼の活動場所なのです。

 だから依頼を受ける場所を新宿駅の伝言板に限定しているのかもしれません。依頼者は新宿まで出向いて書き込む必要があり、その活動範囲も首都圏に限定されやすくなります。全世界から依頼が殺到するリスクを避けることができるはずです。

 もっとも、リョウが依頼を受ける基準は「心が震えた」ときです。彼の心が震えたなら、どこにだって出向いて戦うことをいとわないでしょう。都市を離れてジャングルや荒野で活躍するリョウを見たい気持ちもありますが、シティ・アドベンチャーこそがシティーハンターの本領です。

 一見すると時代遅れで非合理的に見える伝言板ですが、Netflix版では原作から40年の技術的進歩を遂げた現代社会と整合性を持たせる見事な演出として活用されています。Netflix版『シティーハンター』は、半ば古典となった名作をリメイクする際のお手本のような作品ではないでしょうか。

※冴羽リョウの「リョウ」は、正しくは「けものへん+寮」