志水雄一郎フォースタートアップス社長(Photo By Riho Hayashi)

岸田政権の看板政策である「スタートアップ育成5か年計画」を受け、スタートアップエコシステムの強化に向けて官民一体となった取り組みが全国で進められている。その中で人材に焦点を当てたスタートアップ支援で注目されているのがフォースタートアップス<7089>。志水雄一郎社長に事業立ち上げの経緯と狙いを聞いた。

未上場スタートアップの「見える化」を

−志水社長は2016年9月に前身の「ネットジンザイバンク」を立ち上げました

その時の設立趣意書には「データドリブンなハイブリットキャピタルを創造する」と書きました。これを通じて日本経済の再成長を実現していく構想です。

詳しく説明すると、「データドリブン(収集したデータに基づいて意思決定すること)」はスタートアップの可視化を実現するため。上場企業であれば情報開示が義務化されていますが、未公開市場は可視化されていません。つまりプレIPO(新規上場)市場では誰が成長しているのか、一般の人たちには全く分からない。

もちろんスタートアップと日常的に関わっているコミュニティーの人たちは知っています。だが、未公開のスタートアップの情報を公共財として可視化し、活用できるようにするのが極めて重要だと考えました。

−それはなぜですか?

日本はGDPで世界第4位の経済大国ですが、スタートアップへの投資額などのエコシステムランキングで見れば15位以下ぐらい。日本の経済力から見れば「極小」です。その貴重なキャピタル(資本)を誰から順番に投資していくのかによって、日本経済のアップデートするスピードが変わるのではないか。その客観的な判断のためにも「データドリブン」が重要だと考えたのです。

−そして「ハイブリットキャピタル」

「ハイブリッドキャピタル」とは「人」と「資金」を組み合わせた概念。私たちが編み出した独自のビジネスモデルです。私たちヒューマンキャピタリストとベンチャーキャピタル(VC)が一体となってスタートアップを成長に導くこと。これが「ハイブリッドキャピタル」のコンセプトです。

バリューアップで妙手

−投資だけでスタートアップは育たない?

投資して終わりではなく、バリューアップの視点が必要です。バリューアップに必要なのは人材。それも経営戦略や広報、法務、テクノロジーなど多岐にわたります。米国にはアンドリーセン・ホロウィッツやセコイア・キャピタルなどの優れたVCが存在し、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を生み出しました。彼らにはバリューアップの視点があります。それが日本との大きな違いですね。

「スタートアップ育成にはバリューアップの視点が必要」と強調する志水社長
「スタートアップ育成にはバリューアップの視点が必要」と強調する志水社長(Photo By Riho Hayashi)

−スマートニュースやメルカリのバリューアップで一躍注目されましたね

スマートニュースはシリーズBで36億円という、当時で過去最高額の資金調達に成功。それを実現したのが私たちが同社に紹介したCFO(最高財務責任者)だったのです。同社を資金面で支援していたのが、VCのグロービス・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)でした。

スマートニュースのバリューアップを評価していただいたグロービス・キャピタルから声がかかり、メルカリの成長支援にも参加。同社のIPOにより6000億円の資金調達を実現しましたが、その時にも私たちが紹介した人材が活躍しました。その結果、グロービス・キャピタルだけでなく、メルカリからも信頼いただいています。

こうしたVC、スタートアップからの信頼が、フォースタートアップスのブランド形成につながりました。

−次のステップは?

アンドリーセンやセコイアが発信している最近のメッセージで最も気に入っているのは、「私たちにペイン(課題)を食わせろ」。社会課題や未来課題を教えてくれたら、解決するチームとソリューション、プロダクトを作ると言っているんです。「探してくる」のではなく「作る」と。

具体的には「誰をトップに選ぶのか」に始まり、そこに戦略や人材、テクノロジーを組み合わせて課題解決に向き合うのです。

起業家の「熱」を感じたい

ーその中で最も重要なのは「人」だと…

「こんな未来ができるといいな」「こんな社会になるといいな」といった夢を実現するのは、生成AI(人工知能)でもロボットでもない。人が作るんですよ。私たちは「誰にそれをやらせて、そこにどんな最適なチームが編成されて、その事業やプロダクトを実現するためにはどれぐらいの資金が必要で、どんな戦略で進めるのか」と提案します。それを実行するのは人なのです。

ーだからこそHR(人的資源)に注目した

「スタートアップ×HR」にものすごく可能性を感じていて、これが私たちの事業の全てのスタートです。人とお金、戦略を組み合わせることで、事業や産業が生まれていくわけです。私たちは自らを「スタートアップ支援会社」ではなく、「成長産業支援事業者」であると捉えています。

−フォースタートアップスの具体的なビジネスの進め方は?

私たちには世間一般で言う営業部隊は存在しません。先ずVCから投資優先順位の高い起業家の紹介を受けます。私たちは彼らとオンライン面談をし、私たちのオフィスでの事業プレゼンテーションをお願いしています。2023年は200回を超えました。その上で担当者に留まらず多くの社員の知恵を集めて、スタートアップの成長を支援しています。

−なぜ、そのような方法を?

こちらが出向いてお話を伺う一般的な営業では、担当者しか起業家の「熱」を感じられない。私たちの会社でプレゼンをしていただければ、大勢の社員が「熱」を体感できる。だから私は「わが社の全社員を熱狂の渦に落とし込んでほしい」と、起業家の皆さんに頭を下げています。

−日本経済の再成長を実現していくという構想もありましたね

現在、日本のスタートアップへの投資総額は8000億円と言われています。「スタートアップ育成5か年計画」ではそれを10倍にする、10兆円にするという。その背景には日本の国際競争力が35位にまで落ち込んでいる現状がある。新産業の創出こそが、こうした厳しい状況の打破と社会課題の解決、そして日本経済の再成長につながると思っています。

志水 雄一郎(しみず ゆういちろう)氏
1972年福岡県生まれ。1996年慶応義塾大学環境情報学部卒、インテリジェンス(現 パーソルキャリア)入社。転職サイト「DODA」(現 doda)立ち上げなどを経て、2016年にネットジンザイバンク(現 フォースタートアップス)を創業し、社長に就任。2020年東証マザーズ(当時)上場を果たし、経団連スタートアップ委員会企画部会/スタートアップ政策タスクフォース委員に就任。

文・聞き手:M&A Online 糸永正行編集委員

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