関東の快適性に欠ける座席

 昔から関東の鉄道を利用している人なら、「通勤電車の座席の座り心地が悪い」とか、「ひとりあたりの座席スペースが狭い」とか、特に気にならない人も多いだろう。

 特にJR東日本の209系が登場してからは、乗客は座る場所をきっちり決められ、スペースにぴたっと体を収めなければいけない傾向が強まってきた。

 昔のように、7人分のスペースに6人が適当に間を空けて座るということはできなくなっている。もっとも、立っている人がこのように座っている人を見ると怒りたくなるので、今のような形になったのかもしれない。

 しかし、関東の通勤電車の座席は快適とはほど遠い。座席は決して広くはなく、わりと硬めだ。多くの場合、隣の人と体を触れ合わせなければならない。

中央線(画像:写真AC)

通勤電車の混雑原因

 もちろん、その原因は都心の電車に乗ればすぐにわかる。ようは

「人が多い」

のだ。乗客は長距離には乗らない。特に山手線ではそうだ。東京圏の通勤電車は、ひとりひとりに提供されるサービスの質を下げない限り、多くの乗客が利用できなくなっている。

 コロナ禍前ほどではないにせよ、東京の鉄道の朝ラッシュ時の混雑は依然として深刻だ。2022年度の統計をまとめた『数字でみる鉄道2023』(運輸総合研究所)を見て、混雑率の高い区間を適当に抜き出してみると、

・中央快速線 中野から新宿まで:139%
・京浜東北線 川口から赤羽まで:142%
・東京メトロ東西線 木場から門前仲町まで:138%

となっている。コロナ禍前では180%以上の数字を記録した路線もある。このような環境だから、東京の鉄道は人でごった返しているに違いない。

 しかし、関西は違う。例えば、

・東海道快速線 茨木から新大阪まで:102%
・大阪環状線 鶴橋から玉造まで:115%
・阪急電鉄神戸本線 神崎川から十三まで:134%

である。さらに関西の場合、ラッシュのピーク時でも100%を超える区間がない路線も多い。

 確かに利用者が少ないことは売り上げに影響するが、比較的少ないからこそ、よりよいサービスを提供できるとも考えられる。

 近年、山手線はすべての時間帯で列車の本数を減らしている。その結果、1列車あたりの乗客数が多くなっている。はっきりいって

「窮屈」

である。1列車あたりの収入を増やすために乗客を窮屈にしているのが関東の鉄道の現状だ。

 先日関西を訪れ、鉄道に乗ったとき、筆者(小林拓矢、フリーライター)は「それではいけない」と思い知らされた。

JR西日本の東海道本線(画像:写真AC)

関西の広い座席

 関西の鉄道といえば、「転換クロスシート」である。比較的長距離を走る列車で、進行方向に向いて座れるのはとても快適だ。JR西日本の新快速は、転換クロスシート車両の代表例で、3扉車で関西の広い範囲で運転されている。また、新快速の一部列車には有料座席車両もある。一部の私鉄も有料座席車両を導入しており、阪急電鉄も近々導入する予定だ。

 この快適さは関東ではなかなか味わえない。しかし、関西に行って、「こんな車両まで快適なのか」と体験して驚いた。たまたま関西を代表する私鉄、阪急電鉄の電車に乗る機会があった。特急列車はロングシートではあるが、座席と座席の間には仕切りがあり、乗客は

「3人+2人+3人」

の状態で座るようになっていた。かといって、関東の鉄道にありがちな「ここに座れ」という雰囲気はない。しかも、ひとりあたりのスペースにゆとりがあった。座ってみると、バネが利いていて座り心地がいい。これは関東の鉄道ではなかなか見られないことだ。内装も木目調で落ち着いた雰囲気だ。この列車は特急列車なので、次の停車駅までの乗車距離が長く、その間は高速で運転されていた。

 また、JR西日本の東海道本線では、各駅停車でも快適性が追求されていた。筆者が乗車した321系は普通列車用に開発された車両で、4扉車ながら7人掛けから6人掛けになっていた。個々人が区切られたタイプのシートであっても、関東のそれよりもゆったりしている。ひとりあたりの幅を広げているのだ。

JR東日本のウェブサイト(画像:JR東日本)

サービス競争と関西の鉄道

 転換クロスシートは、新快速や快速など長距離を急いで運行する列車に導入されているが、各駅停車はロングシートでありながら、快適に座れる。

 もちろん、関西は私鉄間、私鉄とJR間の競争が激しいから、こうしたサービス競争が起こるという側面はあるにせよ、利用者によりよいサービスを提供することに意義がある。

 関東の鉄道事業者は、今後の人口減少への対策を練っていると聞く。率直なところ、関東ほど乗客が殺到していない関西の質の高い鉄道サービスを見習ってほしい。

 正直、関西の鉄道の快適さには驚いた。今はもちろん難しいが、東京圏で人口減少が起きたときに、このような方向性で鉄道事業を運営してくれることを願うばかりである。