国内フェリーの種類と特徴

 四方を海に囲まれている日本にとって、フェリーは欠かすことのできない交通手段である。今日では、インバウンド(訪日外国人)による海外からの旅客需要や「2024年問題」などにより貨物需要が期待できる反面、少子高齢化による労働力不足や定期旅客の減少という逆風も吹き荒れている。今回は、日本各地で活躍するフェリーについて、中長距離フェリーを中心に航路や物流面の役割をみていきたい。

 2023年時点で、大中小さまさまな253隻のフェリーが活躍している。フェリーには、

・中距離フェリー(100km以上300km未満)
・長距離フェリー(300km以上)

のように、片道の航路距離による区分があると連載第1回「旅客・貨物需要で絶好調の「フェリー」 しかし航路数は20年で「約3割」も廃止されていた!」(2024年5月24日配信)で書いたが、大きさによる区分もある。

 大きさによる区分では、船内側の全ての容積をあらわす“総トン数”が用いられており、20tという線引きがある。

・20t未満の船舶:小型船舶
・自動車を航送しかつ旅客定員13人以上の船:小型旅客カーフェリー

という。

 実際のところ多くのフェリーは20tを超えている。19tのフェリーは、尾道水道の尾道渡船(通称兼吉渡し)のにゅうしまなみのように、短距離を結ぶ“渡し船”といったところだろう。もちろん、小型のフェリーとはいえ日々の生活に欠かせないのはいうまでもない。

JR西日本宮島フェリー みやじま丸(画像:写真AC)

フェリーのサイズ比較

 中型船と大型船の区分は、企業や団体などでさまざまな基準が用いられている。

 20t以上・全長160m以下というような長さによる線引きがあれば、海上保安庁の資料では3000t未満が中型船という線引きもある。また、日本船舶海洋工学会が毎年技術的・芸術的に優れた船舶などに贈っているシップ・オブ・ザ・イヤーでは、5000t以上を大型客船の部、5000t未満を小型客船の部としている。

 総トン数20t以上のフェリーをいくつかあげてみよう。

●JR西日本宮島フェリー みやじま丸
・全長:35.02m
・総トン数:254t
・最大旅客定員:800人(※自動車未搭載時)
・自動車台数:7台

●東京湾フェリー かなや丸
・全長:79.0m
・総トン数:3580t
・旅客定員:680人
・バスのみ最大台数:12台
・乗用車のみ最大台数:105台

●シルバーフェリー シルバープリンセス
・全長:150.0m
・総トン数:10536t
・旅客定員:500人
・トラック台数:92台(12m換算)
・乗用車台数:30台

●商船三井さんふらわあ さんふらわあくれない
・全長:199.9m
・総トン数:17114t
・旅客定員:716人
・トラック台数:137台(13m換算)
・乗用車台数:100台

こうしてみると、どことどこを結びかつ何をメインとして運ぶ(収益源とする)のかを考え、その航路にフィットしたサイズ、旅客定員や車両台数のフェリーが投入されていることがわかる。

2030年度までの物流需給ギャップの推計(画像:NX総合研究所、国土交通省)

国内フェリーの利用者の推移と需要動向

 国内フェリーの旅客輸送人員と自動車航送台数の推移をみてみよう。なお、旅客輸送人員はフェリーを含め全ての旅客船の乗船人員である(日本旅客船協会の資料より)。

・2000年:旅客輸送人員110.1(100万人)、乗用車・その他10591(千台)、トラック5559(千台)
・2010年:旅客輸送人員85.0(100万人)、乗用車・その他7659(千台)、トラック3922(千台)
・2015年:旅客輸送人員87.9(100万人)、乗用車・その他7326(千台)、トラック3729(千台)
・2020年:旅客輸送人員45.3(100万人)、乗用車・その他5639(千台)、トラック3552(千台)

 高速道路の値下げの影響で、旅客も自動車も2000(平成12)年から2010年にかけて大きく落ち込んでいる。しかし、2010年台は微減、あるいは年によっては微増で推移してきたのは、需要の底堅さを物語っているのではないだろうか。コロナ禍においても、旅客はおよそ半減していたが、乗用車・その他で25%、トラックはわずか5%しか落ち込んでいない。

 自動車航送の需要の高さから航路距離100km以上の中長距離フェリーは、大型化が進んできた。国土交通省の資料では

・1990年:約7900t
・2000年:約1万t
・2020年:約1万1000t

と、総トン数が1990年と比較して2020年は1.4倍となっている。将来の見通しとしては、トラックドライバー不足により、2030年には輸送能力の34.1%(9.4億t)が不足するという推計もある。また、国の物流革新に向けた政策パッケージでは、

「内航(フェリー・RORO船等)の輸送量および輸送分担率を今後10年程度で倍増させる」
という目標を掲げている。これにより、今後ますます中長距離フェリーおよびトラックや荷台だけ輸送するRORO船の需要が高まるとみられている。

フェリーの収入構成(画像:日本旅客船協会)

主要な国内中長距離フェリー航路と航行エリアの特性

 国内における主要な中距離フェリー航路は、

・太平洋航路
・日本海航路
・瀬戸内海航路
・沖縄航路

に分類できる。

 太平洋航路は、さらに北海道〜東北・関東・名古屋、関東〜四国・九州、関西〜南九州に大別される。北海道と仙台・名古屋を結ぶ太平洋フェリーは、2泊3日40時間を要する日本最長航路としても有名だ。また、関東と九州を結ぶ航路はオーシャン東九フェリーだけだったが、2021年7月から東京九州フェリーも参入して輸送量が増加している。

 日本海航路は、北海道と秋田・新潟および敦賀・舞鶴を結んでいる。日本海航路および敦賀や小浜は、江戸時代に北前船が登場するまでは、北海道・関西間における物流のメインルートであった。物流において日本海航路の果たす役割は昔も今も変わりない。現在、日本海航路は新日本海フェリー1社が担っている。

 瀬戸内海航路は、関西と九州、関西と四国、四国と九州を結ぶ航路に大別される。ただ、この瀬戸内海という閉じた海域に、阪九フェリー、名門大洋フェリー、商船三井さんふらわあ、ジャンボフェリー、四国開発フェリー、松山・小倉フェリーとひしめいている。それだけ、瀬戸内海航路の需要が大きいということだろう。また、南海フェリー(和歌山〜徳島)、瀬戸内海汽船・石崎汽船(広島・呉〜松山)、宇和島運輸フェリー(別府・臼杵〜八幡浜)といった近距離フェリーの役割も大きい。

 沖縄航路は、鹿児島と奄美大島各島と那覇を結ぶ航路だ。現在は、マルエーフェリーとマリックスラインが、4隻のフェリーで交互に運航している。多くの中長距離フェリーはノンストップであるが、この沖縄航路は鹿児島や那覇と島々を結ぶ役割があり、寄港地が多い特徴がある。

今から17年前。2007年時点の中長距離フェリー航路一覧(画像:国土交通省)

国内フェリーが結ぶ地域間の経済・文化的つながり

 フェリーは、航路により収入の内訳が大きく異なる。国土交通省の資料では、距離により運賃収入の構成が以下のように異なっている。

・関西〜九州 長距離:トラック等約71%、乗用車・同乗者約23%、一般旅客約5%、二輪・その他約1%
・本州〜四国 中距離:トラック等約67%、乗用車・同乗者約19%、一般旅客約13%、二輪・その他約1%
・本州〜四国 近距離:トラック等約35%、乗用車・同乗者約40%、一般旅客約23%、二輪・その他約2%

距離が長くなるほど

「トラック輸送の需要」

が高くなる。距離が短くなるほど、橋や輸送コストの影響も手伝い、トラックの割合が低くなり、乗用車や一般旅客のニーズが高くなるといえよう。

 トラック輸送の需要という面では、中距離フェリーの存在が大きくなっている。北海道と青森を結ぶ津軽海峡フェリーは、2023年10月から青森〜函館間で運航していたフェリーを、あえて青森〜室蘭に延長した。所要時間が、3時間40分から約7時間に伸びるものの、トラックドライバーの休憩時間確保につながるため評価を得ている。

 もちろん、何を運ぶかという観点でもフェリーと地域の結びつきは強い。例えば、宮崎を発着するフェリーは、宮崎で生産された野菜や畜産品を関西や関東といった消費地に運ぶ役割を担っている。関西と四国を結ぶジャンボフェリーは、本四架橋では運べない大型貨物を搬送しており、一次産品だけでなく工業製品の輸送においても、フェリーは地域の経済活動に欠かせない。

 中長距離フェリーの果たす役割は、日本の物流だけでなく地域の経済を支える点で、ますます役割が大きくなっていく可能性を秘めている。今回は、中長距離フェリーの物流面を中心に話を進めたが、次回は旅行や観光面にスポットライトを当ててみようと思う。