この連載では、昭和30年〜55年(1955年〜1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第62回目は、三菱初のDOHCエンジン当社車 ギャランGTO MRの登場だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より)

DOHCエンジンはフォーミュラカーの血統?
ダックテールのクーペでギャランのイメージを一変

昭和44(1969)年12月、ウエッジシェイプを基調としたシャープなスタイリングで登場した三菱コルト・ギャランシリーズは、「従来のドロくさい三菱車のイメージを一変させた軽快なセダン」として好評を博したが、そのギャラン人気に拍車をかけたのが、ほぼ1年後の昭和45(1970)年10月に発表され、11月から発売を開始した三菱のスペシャリティカー、ギャランGTOシリーズであった。

ファストバックにダックテールのヒップアップクーペは、昭和44(1969)年10月の東京モーターショーに出品された「ギャランGTX-1」の市販化モデルで、車名もギャランGTOと改めての颯爽としたデビューとなった。GTOシリーズはセダンの1300(AI)/1500(AII)に対して、4G32型の1600ccエンジンを搭載している。

そのラインアップは、シングルキャブの「MI 」、 SUツインキャブの「MII 」、そしてDOHCを載せて1カ月遅れの昭和45(1970)年12月に登場したトップグレード「MR」となっていた。MRはテールをわずかに跳ね上げたコーダトロンカ風のスタイルやボンネット上のダミーの2個のエアスクープ、サイドのストライプテープなどが目立つ精悍なクーペボディに、4気筒DOHC、1597cc、125psの4G32型サターンエンジンを搭載する。

三菱の乗用車では初となったこのDOHCは、三菱のコルト・フォーミュラⅡに載せていた4気筒DOHC16バルブ、1598cc、フューエルインジェクション装備で240psのR39型エンジンを一般市販車用にデチューンしたものと言われたが、その中味はまったく別物だった。

高回転に振ったセッティングで、低回転域ではやや扱いにくい。ただし、中高速域では水を得た魚のごとく小気味よい加速を披露する。ロングストロークながらシャープに吹き上がり、エンジンサウンドも頼もしい。

MRのサスペンションはフロントがストラット、リアはリーフリジッドで、マスターバックとPCV装着のブレーキ(フロントはディスク)を採用した。サスペンションは硬めのセッティングだが、アクセルを踏み込んでいけばパワーオーバーステアを存分に楽しめた。

タイヤは165SR13のラジアル。ギアボックスは5速MTのみで、最高速は200km/h、0→400m加速の16.3秒は「フォーミュラカーの伝説が生んだマニア向きのホットマシン」のコピーに恥じない強烈さであった。

センターコンソールにも油圧計と油温計2つのメーターを配置。8連メーターとしたダッシュボードに、オーバーヘッドコンソールまで装備するドライバーズシート回りは、航空機の操縦席に似ているところから「フライトコクピット」と呼ばれて、精悍なブラックで統一されたインテリアともども、スポーツムードは満点であった。

定員は一応5人乗りだが、リアシートはゆったりしているとはいえず、実質的には2プラス2となっている。

GTOのMIはシングルキャブで100ps、「MⅡ」はSUツインキャブで110psの4G32型SOHCエンジンを搭載したが、こちらもかなりの実力派で、最高速も「MⅠ」で170km/h「、MⅡ」では180km/hをマークし、そのポテンシャルの高さを示した。

そして、この「MⅠ」、「MⅡ」は昭和47(1972)年2月、排気量を100ccアップした1686ccの4G35型に換装して、17Xシリーズに進化。呼称も「MⅠ」は「XⅠ」と改められてシングルキャブで105ps、「M Ⅱ」も「XⅡ」となり、こちらはツインキャブで115psとなった。ただしMRは、1600DOHC、125psの4G32型のままであった。

排出ガス規制対策のための1600から1700へのスケールアップではあったが、トップグレードのDOHCのMRだけが1600のまま残されるというアンバランスな車種構成は、GTOだけでなく、ギャラン・シリーズのリーダー的な存在であった人気モデルであるMRの高性能なイメージをいささか損なう感じがしたことは否めなかった。

昭和48(1973)年1月、GTOシリーズは再び排気量アップが図られ、 4G52型の2Lエンジンに換装されて、ついに1.6LのDOHCエンジンを搭載するMRは退場となった。

ギャランGTO MRの市販期間はわずか2年2カ月で、累計販売台数は約850台だった。スペシャリティカーゆえの高価格設定もあって販売台数は伸び悩んだが、ギャランシリーズのイメージリーダー的役割は十二分に果たし、その後のギャランの高性能イメージにも貢献した。

SHOW MODEL

ギャランGTOの原型は、昭和44年(1969年) 10月の東京モーターショーで発表されたコンセプトカー「ギャランGTX-1」。名称は開発コードネームであり、当初からこれをベースに市販車を誕生させる計画であった。ラジエターグリル内とバンパー下にフォグ/スポットランプを装備。ホイールはアルミ合金製だった。

EPIDODE

GTOは三菱の積極的なフォーミュラレース活動を背景にデビューした。GTOの宣伝コピーには「フォーミュラカーの技術」がアピールされていたが、GTO用の4G32型の排気量は1597cc(ボア×ストローク=76.9×86.0mm)で、1598cc(89.1×64.0mm)のレーシングエンジンR39型とは異なる設計のエンジンであった。写真はR39B型を搭載したコルトF2000。

●三菱 ギャランGTO MR(A53C型)諸元

●全長×全幅×全高:4125×1580×1310mm
●ホイールベース:2420mm
●車両重量:655kg
●エンジン型式・種類:A10型・直4OHV
●排気量:980cc
●最高出力:125ps/6800rpm
●最大トルク:14.5kgm/5000rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:165SR13
●新車価格:112万5000円

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