幸運に恵まれれば、将来新たな化石が発見され、イクチオタイタンの形が完成するだろう。正確な大きさが変わる可能性もあるが、この魚竜が巨大生物だったことに変わりはない。

 魚竜が三畳紀に出現してから約800万年で、巨大な種が進化したという証拠が増えている。その多くは、まるで巨大なシャチのように、ほかの海洋爬虫類や自分より小さな獲物を狩る凶暴な捕食者だった。

1億5000万年の空白

 これほど巨大な爬虫類であれば、大量の餌を必要としたはずだ。数千万年の間に複数の巨大魚竜が存在したことは、三畳紀の海の性質について何かを示唆している。

「これほど巨大になったということは、三畳紀を通じて、彼らを支える生産的な食物網があったに違いありません」とロマックス氏は述べている。三畳紀には新しい形のプランクトンが進化しており、巨大生物を支えられる生態系ができていたのかもしれないとケリー氏は補足する。ただし、魚竜が進化を繰り返し、巨大化していった理由を解明するには、さらなる研究が必要だと両氏は指摘している。

 しかし、三畳紀を生き延びた巨大魚竜はいない。次のジュラ紀にも、体長10メートルほどの大きな魚竜が登場したが、三畳紀ほどの大きさにはならなかった。イクチオタイタンは最大級の種であるだけでなく、2億100万年ほど前の大量絶滅で三畳紀が終わるまで生きていた、最後の巨大魚竜の一つでもあった。

 結局のところ、今回の発見は、魚竜が大量絶滅の前に衰退せず、繁栄していたことを示しているとケリー氏は強調する。

 三畳紀末の大量絶滅は、過去に起こった「5大絶滅」の一つだ。大規模な火山活動によって、地球の気候や海の化学的性質などが様変わりした。魚竜そのものは存続したが、巨大な種は生き残ることができなかった。

「この巨大な魚竜は、地球規模の絶滅が起きるまさにそのときまで海を支配していました」とロマックス氏は語る。実際、同じくらい巨大な海洋生物が再び現れたのは、海に進出したクジラが大型化を始めた1億5000万年以上も後のことだ。