アダストリアは4月10日、業界初となるファッション特化型のメタバースプラットフォーム「StyMore(スタイモアー)」を開設した。アバターが着用するデジタルスキンを販売する。同社以外にも企業やクリエイターがデジタルスキンを販売できるプラットフォームとなっており、開設時は約150アイテムをそろえた。第1弾参入企業として、サンリオの参入が決定している。メタバースとリアルが融合した初の試みに挑戦し、ファッション領域でのメタバース事業の拡大を目指す。

アダストリアの執行役員マーケティング本部長兼ドットエスティ事業本部長の田中順一氏は、「詳細な数値目標は現時点で伝えられるものはないが、デジタルスキンを販売している『BOOTH(ブース)』さんは年150%成長しているので成長余地はあるとみている。2030年にはメタバース市場が3兆円規模になるという推計があり、仮にそのうちの10%がファッションスキンになるとすると、3000億円の市場規模があり、われわれがその中の1%を取れると30億円になる。それくらいをターゲットに『StyMore』を育てていきたい」と話す。


▲執行役員マーケティング本部長 兼 ドットエスティ事業本部長 田中順一氏

アダストリアは、「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」など、グループで30を超えるブランドを国内外で約1500店舗展開するカジュアルファッション専門店チェーン。2025年に向けた成長戦略の1つに「デジタルの顧客接点・サービスを広げる」ことを掲げており、会員数1750万人(2024年2月現在)を誇る、アパレルEC市場第2位の公式Webストア「.st(ドットエスティ)」を運営している。


▲メタバースデジタルファッション(アバター用の洋服)を販売

ミッションである「Play fashion!」のもと、メタバースの世界でもモノ・コト・ヒト・トキの体験によってファッションをより楽しむきっかけを提供するべく、2022年7月にメタバースプロジェクトを発足。自社が展開する8つのブランドのメタバースデジタルファッション(アバター用の洋服)を販売し、約3300点を販売し、約1000万円を売り上げたという。


▲メタバースプラットフォーム「StyMore」でアバターが着用するデジタルスキンを販売

今回開設したメタバースプラットフォーム「StyMore」は、個人のクリエイターや企業がメタバースアイテムを出品できる。販売金額に応じて、個人クリエイターは7%、企業は10%の販売手数料がかかる。


▲「StyMore」のビジネスモデル

第1弾参入企業として、アダストリアのECサイト「.st」と年間でさまざまな取り組みを実施しているサンリオの出店が決定している。さらにさまざまなメタバース展開をしているJR西日本コミュニケーションズが出店を予定している。


▲サンリオとのコラボ

アパレルECサイトのように直感的にファッションスキンを探せるサイトデザインとなっており、消費者は、出品されたデジタルアイテムを購入できる。購入したデジタルファッションアイテムは、スマホアプリでアバターに簡単に着せられ、VRChatなどのメタバース空間へアップロードが可能。3DCGソフトがなくてもアバターの着せ替えが楽しめる。


▲「StyMore」の画面イメージ

安心・安全な取引のため、出店者の審査、作品のクオリティチェックを実施し、過度な露出、公序良俗に反するスキンなどは出品ができない。さらに今後は、今後、スタイモア―でしか買えないアイテムの販売も予定している。


▲「StyMore」の利用イメージ

「『StyMore』は4つの特徴がある。1つ目はファッションに特化した専門性だ。2つ目は3DCGソフトがなくても手軽に着替えできたり、GugenkaとのコラボによりVRChat以外にも展開できる点。3つ目は出店の審査や商品のクオリティチェックを行い、安心安全に配慮している点。4つ目はここでしか買えないアイテムを今後展開していく点だ」(メタバースプロジェクト責任者 ドットエスティメディア部長 島田淳史氏)と話す。


▲メタバースプロジェクト責任者 ドットエスティメディア部長 島田淳史氏

「StyMore」提供の背景には、デジタルファッション(アバター用洋服や小物雑貨)の需要性、メタバース市場の潜在性を挙げた。メタバースプロジェクトのスタートから約1年半が経過し、2022年に販売したオリジナルアバター「枡花 蒼(ますはな あお)」や「一色 晴(いっしき ひより)」が好評を得ている。アダストリアでは、そのアバターが身に付けるデジタルファッションや小物雑貨も販売しており、その割合はメタバース全体売上の約8割を占め、デジタルファッションの需要があることが分かったとしている。


▲オリジナルアバター「枡花 蒼」(左)、「一色 晴」(右)

さらに、自社で行った独自調査では、アバター関連商品への年間支出額が全体で「3万円〜4万9999円」と「10万円〜」が18.3%ともっとも高く、アバター向け衣装の購入頻度は「月に2〜3回」が42.2%ともっとも高い結果となった。普段のリアルの洋服の購入頻度は「2〜3カ月に1回」が34.3%と最多なことから、リアルの洋服購入頻度より、メタバース向けアバター衣装の購入頻度の方が高いことがうかがえたとしている。

【アバター関連商品への年間支出額】


【アバター向け衣装の購入頻度】


メタバースの世界では、(自身のアバターの)洋服やアクセサリーを購入するといったファッションを楽しむ購買行動が生まれおり、その他にも音楽フェスや旅行に行く、友人たちと会話をしながら食事をするといった、人のリアルな日常と変わらない地続きな世界がすでに成り立っているとし、このメタバースの世界を新たなビジネス機会と捉え、「StyMore」の立ち上げに至ったとしている。


▲リアルの商品と同じデザインのファッションスキンも展開

「小売を越えたファッションのプラットフォーマーに進化していきたい。『.st』と『StyMore』の両軸があるからこそ、メタバースで購入したスキンを通して当社のブランドを知っていただき、同じアイテムをリアル店舗で買っていただくようなデジタルとリアルの融合が期待できる。ただ、現段階でそれぞれのユーザーは別だと思うので、無理に相互総客を図ったりはしない。一部の人気アイテムと同じデザインのファッションスキンを販売したり、もしくはクリエイターが作ったデジタルスキンをリアルのアイテムとして販売したりするなど、少しずつ融合していく」(田中氏)と話す。


▲執行役員マーケティング本部長 兼 ドットエスティ事業本部長 田中順一氏

アダストリアは、70年間ファッションブランドを営んできた自社だからこそ、リアルでもバーチャルでもファッションを楽しむ機会を提供し、さまざまな企業やクリエイターと協業しながら顧客接点の拡大とグッドコミュニティを共創していく考えを示した。