人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。 シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は再雇用で会社に残る場合のリスクについて解説する。
すでに65歳まで会社に残って働き続けることは一般的になり、再雇用された人物が主人公で活躍する小説やドラマもある。転職よりも慣れた職場に残るほうが安心できそうだが、定年前と再雇用後では条件や環境が大きく変わり、思わぬリスクになることもあるという。

◆再雇用にはいくつものリスクがある

2023年の敬老の日に総務省が出した統計では、60代後半や70代前半の就業率が過去最高になった。65〜69歳は約半数が就業、60〜64歳は73%と現役世代とあまり変わらない就業率だった。もはや、65歳まで働くことは当たり前になりつつある。

しかし、定年延長や定年廃止を行い、正社員として長く働ける会社はまだ多くなく、60歳定年でその後は再雇用となる会社が多い。再雇用後は契約社員などに雇用形態が変わる。

再雇用も一般的な言葉になってきており、再雇用された警察官が活躍する『再雇用警察官』のシリーズも、小説・テレビドラマともに5作目まで出ている。一方で、再雇用後の給与が定年前までの金額から大幅に下がったとして会社を訴える裁判も発生しており、再雇用に潜む問題点が浮き彫りになった。

給与の減少以外にも再雇用では気をつけるべき“リスク”がいくつかあるため、今回はそれをまとめて紹介する。

◆リスク1 再雇用後に「契約更新してもらえない」

再雇用に潜むリスクは、大企業と中小企業では異なる場合があるが、まずはどちらにも共通するリスクから紹介する。

リスクの筆頭は裁判にもなっている給与の減少だ。過去には定年前の7割減などもあったが、現在も3〜4割の減少は一般的だ。

定年前と仕事内容が変わらないにもかかわらず給与が下がるのは、同一労働同一賃金の観点からも問題しされているが、これまでの裁判でも、定年・再雇用後に給与が下がること自体は認めている。その減額の幅や、個別の手当の有無などの正当性が細かく議論されている。

次に、仕事内容や職位の変化が挙げられる。職位はその前の役職定年時に下がるが、会社によっては二段階下がることもある。ここは大企業と中小企業で異なるので、あとからそれぞれ説明しよう。

雇用形態も変わる。嘱託社員やパート・アルバイトなどいろいろあるが、いずれも契約社員の一種だ。

権限や雇用条件なども正社員と異なるので注意すべきだが、もっとも注意が必要なのは、契約期間のある有期雇用になることだ。再雇用の社員の契約更新をせず、短期間で契約終了にすることは禁じられているが、実際には雇い止めとなったシニアもいるので注意したい。

退職金制度のある会社のほとんどは定年時に退職金が支払われ、再雇用後はもらえるものがなくなる。今は働いて収入があっても、退職金は老後の将来を支える貴重な資産のため、計画的に使いたい。

◆リスク2 大企業では元気でも「バリバリ働けない」

では、シニアが大企業で再雇用された場合には、どのようなリスクがあるのだろうか。大企業はそもそも賃金が高めで、再雇用や退職金などの制度も整っているため安心できそうだが、それでも大企業特有のリスクがある。

大企業ではまず、中小企業よりもシニアが歓迎されない場合が多い。シニアも若手も社員数が多く、早くポストを空けたかったり、高い人件費を圧縮したかったりするためだ。そのため、再雇用後に「追い出し部屋」と呼ばれるような、閑職・やりがいを感じない仕事や部署に異動となり、自主退職の圧力を受ける場合がある。

また、社員数が多く、社内ルールが厳格な場合が多いことで、自分の立場が下がったことを強く意識するかもしれない。これまでの部下が上の立場になったり、入室や情報アクセスの権利がなくなったりする場面も多いだろう。

そして、大企業での再雇用で多いのが、勤務日数の一律制限だ。まだ体力・能力は衰えていないもかかわらず、一律で「週3日勤務」などにされてしまうことがある。暇をもて余す・やりがいを失うだけならばよいが、勤務日数の制限は給与の減少にもつながる場合があるので要注意だ。

◆リスク3 「同じ仕事なのに」給料がガクンと下がる中小企業

さて、中小企業での再雇用のリスクは、共通でも挙がった給与減少が第一に来る。大企業と異なり、「定年前とまったく同じ仕事内容、勤務時間にもかかわらず、給与だけが大幅に下がる」といったことが発生し、不満の対象となりやすい。冒頭の裁判の話も、こうした事態について争っているものだ。

このように、定年前と同じ仕事内容や勤務時間であることが負担になるシニアもいる。個人差はあっても徐々に体力が衰え、健康リスクも上がる。入院や通院が発生したり、体力的に難しい仕事が出たりする場合があるが、配慮がない会社だと柔軟に対応してもらえないことがある。

大企業が自主退職を促す場合は、閑職に追いやることが多いが、中小企業の場合は反対に、過度なノルマなど厳しい環境下に置いたり、嫌がらせをしたりすることも見られるので注意したい。

◆転職を目指す際の注意点

ここまでに挙げた再雇用におけるリスクは、決してフィクションではなく、実際に起っているものだ。私たちが提供するシニア専門の人材紹介や求人サイトのサービスにも、再雇用後の条件や環境が悪く、転職・再就職を希望するシニアが多く登録している。

シニア専門の人材紹介や求人サイトに登録するシニアの平均年齢や年齢のボリュームゾーンは、いずれも60代前半だ。60歳で再雇用を希望せずに退職後、再び働き始めたい人もいるが、多くは再雇用後に不満を持っての転職か、転職した先に満足できず再転職したいシニアが多い。

再雇用後、契約社員となったが65歳前に契約を打ち切られたというシニアは、コロナ禍以降に多くいた。感染拡大期だけでなく、ゼロゼロ融資の返済が始まって以降も、失業したシニアが多く見られる。

もともと大企業に勤めていたシニアの中には、再雇用後にそれまでとまったく違う仕事に異動となり、不慣れな仕事に馴染めず、またはもとの仕事に戻りたいなどの理由で、転職・再就職を目指す人が一定数いる。

しかし、仕事が変わってから何年も経ってしまっていると、その間のブランクが不利になるので注意したい。転職を目指すならなるべく期間を空けずに動いたほうがよい。

また、残念ながら“もとの仕事”と言っても、営業職や事務職などのホワイトカラーのシニア向け求人は多くなく、まして、管理職の求人は極めて少ないので、狭き門となる。

大企業出身で理想の転職に至りやすいのは、勤務時間の制限を取り払ってバリバリ働きたいシニアのケースだ。もちろん本人が健康で体力もなければならないが、大企業での週3勤務から中小企業で週5勤務、残業までする仕事に転職した場合、時給換算では下がったとしても月の支払い給与が上がることもある。

中小企業の再雇用から転職する場合では、大企業とは反対に「同じ仕事なのに低い給与に納得いかない」ケースが改善されやすい。例えば、60歳定年を機に同じ仕事でも大幅に給与が下がった専門職のシニアが人生初の派遣社員となったことで、「給料は上がって、仕事内容も多少楽になった」という事例も発生しているので、選択肢に入れるのも手だろう。



【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中