老舗遊技機メーカーの西陣が廃業を発表したのは、昨年の3月のこと。まさに業界激震となったニュースから1年。大手遊技機販社のフィールズ(円谷フィールズホールディングス)が西陣の実質的親会社であったソフィアの株式を取得、実質的に買収すると発表しました。
 ソフィアと西陣の関係については、ファンのみならず業界関係者も若干混乱する部分もありまして、本稿でも最初に「老舗遊技機メーカー」と記してはいるものの、本当の意味でのメーカーであるのは西陣の親会社的立場のソフィアであり、西陣はソフィアの機械を独占的に販売する販社という立場でした。つまり西陣はあくまでブランド名であり、実際に西陣の遊技機を良く見ると製造業者(=メーカー名)の記載がある証紙部分にはちゃんと「ソフィア」と書かれています。

◆メーカーと販売部門との複雑な関係

 これは今回買収したフィールズでも同じようなことが言えます。例えば同社の人気タイトルであるエヴァシリーズについては、ほとんどの人がフィールズの遊技機と認識しています。製造業者であるビスティ、さらにはその親会社であるSANKYOの遊技機だというイメージを持っている人は少ないのではないでしょうか。

 そしてソフィアですが、販売部門である西陣は廃業したものの、同様に廃業(2015年)した奥村遊機とは異なり、まだ会社としては存続、メーカー団体である日工組にも加盟したままです。同社ホームページの沿革には「令和5年(2023)3月 遊技機の開発・製造から撤退」とありますが、メーカーとしての資格や設備はまだ保有したままだけに、フィールズが新たなメーカーを傘下にしたという見方もできます。

◆フィールズはパチンコ業界の総合商社

 フィールズといえば複数のメーカーをグループ企業にしていることは有名ですが、それだけではありません。独自の販売網を有しているメーカーでもサブブランドについてはフィールズが独占的に販売していることもあり、メーカー的な立場を持っている“遊技機の総合商社”と。

 さらには2020年のホール内全面禁煙のタイミングでは喫煙ブースを販売したり、最近ではカードゲームの自販機をホールの店頭に置いたり、ファン向けだけではなく業界向けの情報媒体を抱えていたりと、ホールを取り巻くありとあらゆることを手がけています。

 ただソフィア買収時点での企業情報を見る限りでは、設備という面では手薄かなという印象。フィールズからのリリースによれば、ソフィアの株式取得について「島設備提供のトップ企業である株式会社エース電研を含むソフィアグループとの協業は、大きなシナジー効果をもたらす」とあり、どうやら遊技機メーカーとしてよりも設備面の強化が今回の買収の主な目的だといえそうです。

 ちなみにエース電研はホールコンピューターや玉の補給などの設備を手がける会社で、西陣と同様にソフィアの下にぶらさがっている立場の会社。かつては遊技機メーカーとしても活動しており、西陣とは異なり、エース電研としてメーカーの資格を有しています。

 つまり今回のソフィア買収によって一挙に2メーカーを傘下にすることができますが、前述のように遊技機メーカーではなく、あくまでも設備メーカーとしてグループ化したということでしょう。

◆ホール軒数が減っているのに設備部門を強化する不思議

 ホール軒数が右肩下がりを続けるなか、遊技機以上に先細りともいえそうな設備面の拡充するという姿勢については、さまざまな意見や憶測があるかと思います。その理由は、基本的に設備は遊技機ほどの更新されるものではなく、新店に導入する際に一気に儲けるという形であるからです。

 また、スマート遊技機の登場によって大規模な設備が不要になりつつあり、設備メーカー自体も厳しさを増している状況を鑑みると、なぜ設備面を強化するのか……と穿った見方をしてしまうもの。

◆業界の存続に繋がるフィールズの姿勢

 ソフィアと西陣のように老舗といわれるパチンコメーカーの多くは、遊技機だけではく設備メーカーとしての面もありますが、関係者に話を聞くと、設備部門の人員は既存設備のメンテナンスが主な仕事で、細々とという感じだとか。それでも総合商社として事業を継続、発展させていきたいであろうフィールズとしては、今回の買収によって他の老舗メーカーと同じ立場になれるだけに、きっと設備事業を手に入れることは必要だったのかなと考えます。

 これはフィールズの「今後も業界のトップ企業の一角として頑張っていこう」という姿勢の表れなのではないでしょうか。いくつかの大手といわれるメーカーが業界から逃げ出そうという噂を伝え聞くだけに、これはこれで骨をうずめる覚悟なのだとしたら、その事業拡大が業界の存続につながるはずです。

文/キム・ラモーン



【キム・ラモーン】
ライターとして25年のキャリアを持つパチンコ大好きライター。攻略誌だけでなく、業界紙や新聞、一般誌など幅広い分野で活躍する。