65歳以上の割合が総人口の約3分の1を占める超高齢社会(2019年高齢社会白書より)に突入した現在の日本では、これまでにはなかった社会問題が浮き彫りになっている。そのひとつが高齢者の生活する住居のゴミ屋敷化問題だ。
 病気や体力の低下によりゴミを出せなくなった高齢者の生活環境が徐々に悪化して“ゴミ屋敷”と化したり、ゴミが積もった家の中で孤独死していたりするケースは近年、後を経たない。

 東京都大田区を拠点とするブルークリーン株式会社のカスタマーサービスを担当し、YouTube番組「特殊清掃chすーさん」で、特殊清掃の仕事について発信している鈴木亮太さんに、ゴミ屋敷や孤独死の実態について伺った。

◆現場作業から見える実態

 特殊清掃業を行っているブルークリーンの元には、さまざまな規模の案件依頼が後を経たない。全体の半数ほどを占める“家の大規模な片付け”以外にも、引っ越した後の部屋の消臭や火災現場の復旧といった施工の依頼が、1日あたり多いときは3、4件ほど舞い込んでくるという。

 梅雨が明けると、業界の繁忙期でもある夏を迎えることとなるが、海開きの季節の到来とともに徐々に増えてくるのが、孤独死に関連する案件の依頼だ。

「孤独な最期を迎えられる方は季節を問わずにいらっしゃるんですけど、気温の高い夏場はご遺体をそのままにしていると、やがて家の外にまで凄まじい腐敗臭が漂ってくるようになるので、孤独死の実態が明らかになりやすい。そんな事情もあって、近隣にお住まいの方が異変に気づき、私たちの元にご連絡をいただくケースが増えてくるんです」

◆孤独死する高齢者の生活

 鈴木さんによると「繁忙期を迎える夏場には、孤独死に関連する清掃業務の依頼が全体の約40〜50%に及ぶこともある」そうだが……。

 気温40度に迫る猛暑の中、強烈な悪臭の漂う過酷な環境での作業は、想像を絶するものだという。

 日本では「特殊清掃」の一部として扱われる孤独死の現場における清掃作業だが、国際的には「バイオリカバリーの中にあるトラウマシーンに含まれる清掃作業」に該当し、高い技術水準が求められる業務だ。専門性の高い技術を有し、これまでに数々の現場を目撃してきた鈴木さんの経験によると、孤独な最後を迎えられる高齢者にはいくつかの傾向が見られるそうだ。

「孤独死をされる方は、単身でお住まいになられていて、近隣の方との付き合いがあまりなかったり、年金や生活保護の受給者であったりするケース。何かしらのご病気や疾患を抱えられている方も多いように感じています。実際に現場を清掃していると、飲み残した向精神薬が出てくることも頻繁にあります……。単身世帯であれば、少なからず孤独死の可能性はあると思いますが、周囲との関係が希薄で、さらに心身の健康状態が芳しくない方は、より孤独な最期を迎えられるリスクが高いと感じています」

◆片付け始めるまでに1年かかったことも…

 ブルークリーンに舞い込んでくる「特殊清掃」の依頼は、高齢な家主がいなくなった家の清掃ばかりではない。ご存命の高齢者が住まわれている“ゴミ屋敷”の清掃に関する依頼も受けるというが、こちらは家主がご存命であるがゆえの難儀な問題に直面することがあるという。

「『ご高齢者がお住まいの家を片付けてほしい』というご依頼は、例えばケアマネージャーさんのように、それぞれの地域で介護サービスやご高齢者の福祉に関連するお仕事をされている方から受けるのが最も多い流れです。でも時には、第三者が見ると明らかに“ゴミ屋敷”に住んでいるはずなのに、ご本人がまったくそれに気づいていなくて、私たちが家を片付けることに家主のご理解をいただけない場合もあるんです。長い時には、納得していただいて片付けを始めるまでに、1年くらいの時間を要したこともありました」

 意固地で“こだわり”の強い家主を周囲の人が説得し、腰の高さくらいまで積み上がったゴミの数々を取り除ける状況になったとしても、残念ながら、まだまだ胸を撫で下ろすことはできない。

◆“ゴミ屋敷”の特殊清掃で見られるトラブル

「清掃に取り掛かった後に、家主から『自分が現場にきちんと立ち会ってひとつ一つ捨てるものを確認したい』とか『生ごみが散乱する家の中にあるものを、種類別に分けてほしい』といったご依頼を受けることがあるんです。本音としては、目の前に積み上がった数々の物を片付けるだけで精一杯な状況に置かれていたりもするのですが、お部屋の中にあるものはすべてお客様の持ち物ですから、しっかりお客様のプライバシーや尊厳を守り、プロとして誇れる仕事を心がけているんです。お客様の気持ちに寄り添いながら作業を進めていくバランス感覚が、僕らにとってとても大切なことではないかと思います」

 ブルークリーンへの清掃の依頼は、家族やご依頼主との話し合いの済んだ後に行われることが多いというが、例えきめ細やかな配慮を欠かさなかったとしても、家主の事情により清掃作業が止まってしまうこともあるそうだ。

「ある時、認知症の進みつつある方からご依頼を受けたのですが、事前に了承を得て清掃を始めたはずなのに、ある日突然に心変わりしたからなのか『あなたたちは誰?片付けなんてお願いしていないんだけど……』とおっしゃられたことがあって。その時は、本来ならば数日で終わるような作業を1か月くらいかけたこともありました。もちろん後見人様やご親族様とも連携を取って契約や作業を進めていました。家主の気持ちに寄り添い、粘り強く交渉してくださったご親族や介護のスタッフの皆さんには、ただ感謝の気持ちしかありません」

◆ゴミ屋敷にも、意外なお宝が眠っている

 さまざまなものが所狭しと積み上がった“ゴミ屋敷”の中にも、資産価値の高い物品が眠っているケースがある。

 その内訳はブランド品や貴金属といった趣向品や、玩具やDVD BOXのようなアイテム。そしてタンスの奥に隠された多額のへそくりや由緒正しい家系図といったものまで多岐に渡り、ゴミの山から出てきたアイテムが、実はコレクター間で高額な取引が行われている“お宝”だったということも少なくないという。

「不要になった物の中に、もし再流通できそうなものがあれば、リサイクルをご提案するようにしています。過去には“ゴミ屋敷”の中から出てきた昔のプロ野球カードに、数十万円の値が付いたこともありましたし、意外なものが高額だったというケースは結構あるんです。家主の方のご意向をお伺いしつつ、もし買取をする方向になった時には、できる限りお客様のご予算の負担を減らすことを最優先して、綺麗な居住環境を実現させることを重視して業務に取り組んでいるんです」

◆清掃業者が見た片付けられない人の特徴

 2020年の国勢調査によると、50歳時点の未婚率は過去最高を記録した(配偶関係不詳補完値ベースで、男性28.3%、女性17.8%)。少子高齢化や平均寿命が伸びている点などを鑑みても、現在の若者や現役世代が孤独な最期を迎える可能性は高まっているようにも思える。

「将来“ゴミ屋敷”の主になる危険性を秘めた人は、先ほどお話しした認知症の進行以外にも、ご家族に先立たれて気力や体力の低下し、片付けができなくなってしまった方などもいらっしゃいます。いわゆる“ゴミ屋敷”の問題はご高齢者に限った話ではないんです」

 鈴木さんの経験によると、「男性の場合は食べ物やお酒の空き缶、女性の場合は生ごみや衣類で散らかっている場合が多い」という若者世代の“ゴミ屋敷”。その家主のライフスタイルや対処法について、次のように言及する。

「日々の仕事に追われて不規則な生活を送っていたり、毎日のテレワークを続けているうちに外出するのが億劫になって、ゴミ出しを忘れてしまうケースです。食べ物の袋やECサイトで購入した商品の段ボールといったゴミがだんだん溜まっていって、家に足の踏み場がなくなってご依頼いただくこともありました。あとは、一度買ったはずのものをまた買ってしまい、いつの間にか溜め込んでしまったりするお客様がいらしたりとか……。人によって状況はさまざまですが、ご依頼を受けた方の数々の商品を集めた努力に対して一定の理解を示しつつ、部屋が綺麗になることで前向きな未来が開けてくることを語りかけるように心がけています」

◆将来は“ゴミ屋敷”の主かも?

 ブルークリーンのサービスに魅了された“ゴミ屋敷”の住人の中には、数年おきに掃除を依頼されるケースもあるというが……。

「リピーターになっていただけることは嬉しい部分も少しありますが、居住環境は健康寿命にも直接関わってくるので、『もう僕たちに頼らないようにしてください』とご依頼者に呼びかけているんです。それでも綺麗な部屋での新生活を始められた家主の方が、それまで以上に充実した人生を歩んでいる姿を見たり、清掃後に感謝の言葉を聞くと仕事のやりがいを感じさせられますし、報われた気持ちにさせられる。部屋を綺麗に保つためにはエネルギーも必要ですが、部屋を片付ける習慣だけで前向きになれるということを多くの人に知っていただけたらなと思っています」

 孤独死が増えるというこれからの暑い季節。ゴミ屋敷のニオイもより一層キツくなりそうだ。問題を深刻化させないためにも、万が一のときは業者に依頼するなど早めの対策を心がけたい。

<取材・文/白鳥純一>



【白鳥純一】
エンタメ関係のイベントプロデューサーを経て、ライターとしての活動を開始。 編集業務のほか各企業のメディア運営などに携わる