元俳優で花創作家の志穂美悦子(本名・長渕悦子)が9日、「鬼無里(きなさ)まり」の芸名でシャンソン歌手デビューした。

この日、都内で開催された「エターナルソング・コンテスト」の受賞曲発表コンサートに出演。受賞作の「自惚(うぬぼ)れさせてよ」とシャンソンのレパートリー「愛してくれるなら」の2曲を披露した。鮮やかな黄色のドレスで、身ぶりをまじえて情感たっぷりに歌い、喝采を浴びた。

エターナルソングは、音楽評論家で作詞家の湯川れい子さん(88)が提唱する歌。シャンソンのように「半永久的(エターナル)に歌ってもらえる新しい歌」の発掘のため、昨年から作品を公募していた。この日の受賞作の発表会には、鬼無里のほかに、美川憲一、小林幸子、クミコ、池畑慎之介が出演した。

日本初のアクション女優として活躍した志穂美は、20歳過ぎから東京・銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」に出入りしたほどのシャンソン愛好家。87年に音楽家・長渕剛(67)と結婚後は、芸能界を引退。しばらくしてから、独創的に花を生ける花創作家として活動して来た。

今回、長い時を経て、鬼無里まりとして歌うことに、「この年になるといろんな経験をして来ました。その思いがまるで鉄砲水のように勢いよく飛び出してきた感じです」と話した。さらに「先を夢見て、毎日毎日アクションの練習をしていたあのころ。あの10代のころと似ています。私は人生の最後にも青春があったなら、と思っていました。(鬼無里まりとして歌うことは)その青春そのものかもしれません」という。

アクション女優時代からの筋トレは今も続けており、鍛えられた腹筋からの発声に不安はなかった。それを知っていた湯川さんが、今回の出演をオファーした。

鬼無里まりの「鬼無里」は長野県の地名で、鬼無里地区の観光協会などから感謝の言葉が寄せられているという。「鬼無里は鬼のいない里です。日本の平和、いさかいがないという意味も込めています」と芸名の由来を説明した。

夫の長渕は歌謡界のスーパースター。結婚当時、「家に2つの星(スター)はいらない」という長渕の考えで、芸能界を引退したと言われている。それだけに湯川さんから「(歌手になることの許可は)大丈夫だったの?」と水を向けられると、「謀反を起こしました(笑い)。打ち首か切腹ものと思いましたが、たぶん大丈夫じゃないかと思います」と話した。

共演の美川から「しぶとく、頑張るのよ」と激励され、笑みを浮かべた。そして「歌謡界をけん引する歌手の方々と、こうしてステージに立たせていただいて、趣味で終わらせるわけにはいきません。これからも歌っていこうという覚悟を植え付けられています」と語り、鬼無里まりとして歌手活動を続けていくことを誓っていた。【笹森文彦】

◆志穂美悦子(しほみ・えつこ)本名・長渕悦子。岡山県西大寺市(現岡山市)生まれ。72年に千葉真一さんが創設したジャパンアクションクラブ(JAC)に合格。18歳から映画「女必殺拳」シリーズに主演し、日本初のアクション女優となる。「上海バンスキング」(84年)などで日本アカデミー賞優秀助演女優賞を獲得。学園ドラマ「熱中時代」などテレビでも活躍。163センチ、血液型A。