【今週グサッときた名言珍言】

「なんで、あの時、まき散らしてたんだろうって」
 (のん/NHK・Eテレ「スイッチインタビュー」5月10日放送)

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 2013年のNHK朝ドラ「あまちゃん」の主人公・天野アキを演じて大ブレークし、現在は俳優に加え、音楽やアートの分野でも活動する、のん。30歳を迎え、20代を振り返った一言を今週は取り上げたい。それを聞いた「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子は「まき散らす? すごい気になるんですけど!」と驚きの声を上げた。のんは「とがってたなあって自分で思う」と述懐し、こう自己分析した。

「自分の持っていた意思とか、価値観が一番正しいと思っていた時期で、だから人にもそれを分かって欲しかった。その思いがすごく強かったですね。で、それを正しいと思ってるから、そうですよねって言うこともなく、なんで分かんないんだろう、おかしいよ、みたいな態度だった」

 彼女は16年、事務所からの独立を機に芸名を本名から現在のものに改めた。「のん」に変えることに躊躇はなかったという。

「それが自分の中でどういうことか、かみ砕けてなかったり、どういう影響があるのかとかっていうのを、おおよそは予測できたけれど、自分自身の中で完結することだと思ってた。それ以外、自分の中よりも外のことに考えが至らなかった」(NHK「かんさい熱視線」23年8月25日)と当時を顧みている。

 その後、16年公開のアニメ映画「この世界の片隅に」(東京テアトル)で、声優として主人公を演じた他、演技の仕事からは遠ざかり、本格的な映像作品の演技に“復帰”するのは、20年まで待たねばならなかった。「自分の演技が大好きで、それを守りたいという意識を強く持ち続けてきた」(文藝春秋「文春オンライン」22年10月21日)という気持ちがあった彼女にとって、忸怩たる思いがあっただろう。

 一方で「怒りの感情って、私の中では結構お気に入りの感情なんです」(同前)と語る彼女は、能年玲奈時代も「疳の虫」だと形容していた(日本テレビ系「嵐にしやがれ」14年8月9日)。

 アートの分野で「怒り」をポジティブな表現に変え、精力的に作品を発表していった。

 冒頭の番組では「壮絶ないろんなドラマがあった私の10年間」と語っていた彼女の20代。自分の演技を守ろうとした結果、くしくも自分自身の人生がドラマチックになってしまった。それを経て、自分の弱さやネガティブな部分も、そのままさらけ出せるようになったというのん。30代の演技は、誰にも負けないくらいの深みがあるに違いない。

(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)