夫婦仲はよくても、肉体的な関係は乏しい。これまでの調査でセックスレス夫婦が7割に上ることが明らかになっている。お互い性欲を失ったり、求めないことに合意したりしていれば問題ないが、そうじゃないとちょっとややこしい。周りには相談しにくいセックスの悩みは、どうやって乗り越えればいいのか。

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「夫婦のセックスレスに関する実態調査」を行ったのは、マッチングアプリ「Healmate」を運営するレゾンデートルだ。20〜59歳の既婚男女4000人を対象に配偶者とのセックスレス事情について調べた結果を、昨年発表した。それによると「配偶者とセックスレス状態にある」と「ややある」を合わせた割合は68.2%。実に既婚者の7割がセックスレスなのだ。

 日本性科学会の定義では、セックスレスは性的なコンタクトが1カ月以上ない状態を指す。ここでいう性的なコンタクトには、性交のほかキスやペッティング、裸でのベッドインも含む。今回の調査では、性交がまったくない状態をセックスレスとしているようだ。

 では、非レスの人は、どれくらいの頻度か。同社が今月発表した調査によると、既婚男性の場合、20代でも「数カ月に1回」「年に1、2回」「それ以下」が合わせて28%に上る。3割近くが日本性科学会の定義上のセックスレス状態にあることが分かる。40代は28%、50代は36%で妻との関係があるにはあるが、季節行事くらいのイメージか。

 既婚女性も同様で、「数カ月に1回」以下の割合は40代で38%、50代で62%に上る。女性の数字が50代で突出するのは閉経も影響しているのだろう。

「セックスレスと一口に言っても、男女それぞれの悩みが絡んでいることが少なくありません。特に日本人は性の問題を見て見ぬふりをすることがよくあるので、悩みがあればきちんと向き合うことが大切です」

 こう言うのは、性に関する相談窓口「せい相談所」代表のキム・ミョンガン氏だ。では、どんな悩みがあって、パートナーとどう向き合えばよいのだろうか。

 キム氏に聞いた。

■相手の満足度や絶頂感を悩み、気にする

 アダルトグッズを販売するTENGAが男性約1000人に「性の悩み」について調査したところ、性の悩みを抱える男性は71%。

 自分のこととパートナーとの関係に分けて、40〜60代の世代別に分析すると興味深いことが明らかになった。

〈表1〉は、男性が自分自身のことで気になることをランキング。40代と50代で「セックスのテクニック」が1位で、60代も3位だ。これらの世代はエロ本や男性誌、アダルトビデオで“勉強”したはずだが、年を重ねても自分のワザがどれくらいのレベルにあるのか気になるようだ。それ以外では、おおむねムスコの具合を気にしていることが見て取れる。

〈表2〉と〈表3〉は、パートナーとの関係における悩みと気になることだ。それを見ると「セックスレス」が悩みのトップになっているのは60代のみだ。40代と50代も2位だが、それ以上に「相手の満足度」や「絶頂感」について悩んでいることが分かる。「満足度」と「絶頂感」の割合を加えると、どの世代もセックスレスを大きく上回っている。気になることのランキングでも、「満足度」と「絶頂感」をプラスすると、どの世代でもトップに躍り出る。

 男性が自分のことで気になるのは「セックスのテクニック」で、相手との関係で気になることや悩みは「満足度」や「絶頂感」ということから、男性の多くがセックスに自信を持てない心情が見て取れるだろう。そこに早漏や短小といったムスコの問題が重なると、自信喪失は不安感の増幅につながるかもしれない。

「日本には十分な性教育がなく、性の話題はタブー視される傾向があり、男性はアダルトビデオでセックスを学んでいるのが現状です。そこに描かれているのは男性がいかに勃起して、女性器にペニスを挿入して射精するか。そういう短絡的な映像を繰り返し見ていると、“セックス=挿入&射精”と誤解する男性も少なくありません。その誤解を解かずに女性とベッドインした男性は、往々にして乱暴に扱うから嫌がられて当然でしょう。そんな扱いを受けた女性が嫌悪感をストレートに口にするかどうかはともかく、事後の女性の態度で気づく男性もいるはず。そんな態度やしぐさを見た男性の中には、女性の満足感や絶頂感を悩む人もいるということです」

テクニックでイカせようは男性のエゴ

 女性に嫌な態度をとられるくらいなら、セックスはやめておこう……。男性本位の自分勝手な解釈が、セックスレスの原因になっている可能性は十分あるという。

「セックスは、オナニーと違って必ず相手があってのことで、ミスマッチは常に摩擦の原因になります。悩みや不安の根底にあるのもお互いのミスマッチですから、解消するにはきちんと向き合って話をするしかありません。ただし、男性はテクニックを重視し過ぎないこと。調査結果にも、女性をイカせられたかを気にする男性が多い傾向がうかがえますが、大切なのはテクニックではありません。安心感です。たとえば、早漏を気にする男性が頑張って女性に奉仕したつもりでも、何げなく『えっ、もう出ちゃったの?』なんて言われたら傷つくでしょう。そんな男性は次にベッドインするとき、不安で安心できません。女性も同じです。話し合いで性癖やプレーの中身を詰めるだけでなく、安心できるムードづくりをとにかく第一に考えること。日ごろから相手を尊敬し、褒めてハグしたり、手をつないだりすると、ベッドで不安を感じることはありません」

 年を重ねて“ごぶさた状態”が続き、久しぶりにパートナーと肌を重ねると、男性はうまく勃起できるか不安になり、女性はしっかり濡れるか心配する。それ以外にも不安のタネはいくつもあるだろう。そういうことを一つずつ潰す、すり合わせが必要だ。話し合いでその作業が済んだとしても急いではいけないという。

「女性は、男性以上に不安感が強いし、久しぶりの逢瀬ならなおさらでしょう。ですから、セックス=ピストンという考えを捨てること。女性の不安を取り除くには、まず手をつないだり、ハグしたりして、不安が解消されるのを待ち、男性を受け入れてもらう状態をつくるのです。女性に受け入れ態勢ができても、年齢や体の状況によっては濡れにくいこともある。そういうときはローションを使って挿入するか、それとも挿入せずペッティングにするか。挿入したとしても、無理にピストンせず、動かずにキスや愛撫するだけでもいい。それが中高年のセックスです。相手の気持ちを汲むことなく、テクニックでイカせようとするのは男性のエゴでしかありません」

 TENGAは別の調査で20〜69歳の男女計1000人に性癖について聞いている。その中で女性の性感帯を複数回答で挙げてもらったところ、1位はクリトリス(55.8%)で、以下、乳頭(38.6%)、首・うなじ(29.8%)、耳・耳たぶ(29.6%)と続き、膣内(29.4%)は5位。3人に1人でしかない。このことからも、ピストンがそれほど重要でないことが分かるだろう。

 同じ調査で性癖を伝えた割合は、男女とも全体で3割ほど。年代別では若いほど高く、20代と30代は約8割で、40代は58.5%、50代は45.2%、60代は33.1%と年齢が上がるほど割合は下がるが、それでも40代と50代でも半数ほどが伝えている。当然性癖を伝えると7割が性的満足度が上がっている。

 さあ、妻や彼女と話し合ってみよう。