【大谷を獲得した日本ハム山田正雄元GMに聞く】最終回

  本塁打王と2度のMVPという実績をひっさげ、プロスポーツ史上最高額でドジャースに移籍した大谷翔平(29)。メジャーでベーブ・ルース以来となる二刀流選手の礎を築いたのは日本ハムだろう。

 大谷を獲得した当時のGMである山田正雄スカウト顧問に結婚、二刀流、その素顔などを聞いた。今回はその【最終回/全4回】。

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 ──大谷は飛び抜けた素質があり、なおかつ素質を生かすだけの能力も持ち合わせていたと。

「フツーは立ち上がりが良くないなら、どうしたらいいかいろいろな人に聞いたりするじゃないですか。僕らも本人にそういう質問をしましたけどね。立ち上がり悪いけど、どういうふうに考えてるのと。すると、まあ、自分なりに考えてますよという程度。本人はこう考えているから、こうしていますとまでは言わない。僕らでも技術面は言う立場じゃないけど、精神面とか……例えばコーチが言っていることを本人が理解しているのか把握するためにそういう話はするんです、ある程度、一人前になるまでは。

 世間やプロの世界はこういう世界だとか、僕なりには教育していくんですけど、この子にはそこまでしなくても大丈夫なんじゃないかなと、入団して少したったころに思った。打てなくてもケロッとしているし、バッティングも変えない。これは絶対、どこかで出てくる。ちゃんとモノを考えてやっているんだなと。いやー、このところ、こういうことで悩んでるんですよ、どうなんですかね、山田さん……などと言ってくる選手は意外に多いんですけど、そういうことは言わない。

 言わないけれど、自分なりにしっかりと考えてる。プロでやっていくうえで、自分にいま欠けてるのは体力、パワーなんだろうと、大谷はそれがまず分かっていたんじゃないかな。課題は技術面以前に肉体面と把握していた。自分の課題がなにか、克服するために何が必要かを正確に理解したうえで、なおかつ努力できる才能を持ち合わせていたように思う」

 ──中距離打者という周囲の声とは違い、最初からホームランバッターを目指していたと思いますか。

「そう思いますね。自分に足りないのはパワー。パワーさえつけていけばと思ってたんじゃないですかね」

「自分の考えている目標のレベルが、フツーと違う」

 ──プロ入り当初からいまのような姿を目指していたと。

「かもしれません。札幌ドームで完封した試合があった。終わって10分後くらいですか、マッサージをしていたので声を掛けたんです。『ナイスピッチング!』ってね。すると、えっ、それが、どうかしましたか? 何かありましたか? という表情なんです。人の話を聞いてるのか、おまえのことじゃないかと言いたいくらい(笑)。

 喜怒哀楽をあまり出さない選手でも、試合直後は神経も高ぶってるし、充実感みたいなものがどっかに出てる。なのに大谷は、言われてみればそうですね、みたいな反応。浮かれることがまったくない。目標というか、いまは目指すところの過程で、僕はこんなもんじゃないんだという。まだまだパワーもないから、努力していかなきゃならないんだと。だから有頂天にもならないし、満足することもない。

 自分の考えている目標のレベルが、フツーと違うんでしょうね。僕も含めて、周りはジャイアンツの高橋由伸のような中距離ヒッターと思ってたかもしれませんけど、本人は全然、違ってたのかもしれない。いや、まだまだこんなもんじゃないですよと、あえて口に出すこともしない。なにしろ、そういう話をしないですからね」

 ──本人と打ち解けて話したことは……。

「それが、ないんですよ(苦笑)。こっちも選手と親しくなるのはどうかなというスタンスなんだけど、選手よりは気を使って、いろいろなことを聞き出そう、なるべく話を長くもっていこうと思う。けど、話はすぐに終わっちゃいますもん(笑)。『エース』(大谷の実家で飼っていた愛犬)はどうした? 元気にしてる? と水を向けると、『はい、元気にしています』と。そこで終わっちゃう。あまり親しくしてないから分かりませんけど、向こうから見れば、僕なんかおじいちゃんですよ。だから会話が進まないのか。他の選手とはもっと深く、話はしてると思うんだけど(笑)」(おわり)